大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜
日常は平穏だった。あれ以来不審者を見かけることもなく、平和な日常が送れている。
実家と近いため、智佳子には結婚してからもよく顔を見せている。最近は体調も良好だった。
やはり満咲家の人間となったことが大きかったのだろうか。
仕事は結婚してからも続けていた。
義理の両親には辞めろと言われるかと思ったが、その辺は理解があり寛容なようだ。
変わったことと言えば、水鏡先生から満咲先生と呼ばれることになったことだろうか。
「みか、満咲先生」
「九原先生」
燈里を呼んだのは、体育指導をしている男性保育士の九原維澄だ。
スポーツ刈りにした清潔感のある風貌で、年齢は三十を超えているらしいが童顔で若く見える。
「水鏡でもいいですよ」
「いやあ、流石に申し訳ないですよ。すみません、慣れますね」
そう言って頬を掻く。
「それよりどうかされたんですか?」
「あ、そうだ。さっき園長先生には報告したんですけど――園の周りをうろつく不審な男がいるんですよ」
九原は声を潜めて囁いた。
燈里は思わずドキッとしてしまう。
九原と一緒に園庭へ出てみると、門の外に黒いキャップにサングラスをかけた男がしきりにウロウロしている。
「僕、ちょっと声かけてきます」
「待ってください!」