大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜
突如嶺士の口から出た朝晴の名前にドキッとする。
「朝晴はよく燈里の話をしていたからな」
「そうですか……」
幼い頃、働きに出ていた母に代わって面倒を見てくれたのは兄の朝晴だった。
燈里が熱を出した時、朝晴が作ってくれたのが蜂蜜入りのミルクティーだった。
「母ちゃんには内緒だぞ」と人差し指を口元に当てながら笑顔を浮かべていた朝晴のこと、今でも鮮明に覚えている。
蜂蜜が入ったことで濃厚な甘さがプラスされ、優しいミルクとのハーモニーがほっこりとした温かさを与えてくれる。
大人になった今でも大好きな、思い出のドリンクだ。
それをまさか嶺士が知っていたとは思わなかった。
「燈里、明日からしばらく送っていくし、帰りも迎えに行く」
「えっ、毎日は申し訳ないです」
「何を言ってる。燈里より大事なことなどあるものか」
不覚にも胸がきゅうっとする。
それと同時にふと脳裏を過ぎる。この人が本当に朝晴に無茶な命令をして、死なせたのかと。
もし本当ならば、どうして一人で行かせたのか。
だけどその問いはハニーミルクティーの中に消えた。
不意に髪の毛を掬い取られた。
燈里のアッシュブラウンの髪の毛を指先でくるくる巻いていじくる嶺士。
「……何ですか?」
「いや、つい触りたくなって」
「何ですかそれ」
「触っていると安心するんだ。ここに燈里がいると実感できるから」