大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜
* * *
翌日から嶺士は本当に車で送り迎えをしてくれるようになった。
「何かあればすぐに連絡してくれ。引き続き不審人物については調べを進めている」
「はい」
「燈里、」
嶺士は燈里を引き寄せると、軽く触れるだけのキスをした。
「ちょっ、なんですか?」
「したくなった。そろそろ行くから、くれぐれも気をつけるように」
そう言うと嶺士は車を走らせ、行ってしまった。
(急になんで!?)
行ってらっしゃいのキスなんて、柄じゃないのに。
あまりに突然すぎたので頬が熱ってしまっている。
何とか熱を冷ましながら出勤した。
「おはようございます」
「あ、満咲先生おはようございます」
「おはようございます、九原先生」
九原は燈里の耳元で囁いた。
「旦那さんとラブラブなんですね」
「っ! なっ」
「見ちゃいましたよ〜。新婚さんですもんね」
九原はそう言ってニコニコ、いやニヤニヤしていた。
燈里は見られていたことが恥ずかしくて俯くしかない。
「旦那さん、送り迎えしてくれるんですか?」
「あ、はい」
「大事にされてるんですね」
「……仕事だからですよ」
九原は照れなくてもいいのに、と笑っていたがそうではない。本当に仕事なのだ。
燈里を守ることが嶺士の仕事だから自分の職務を全うしているだけ。
だったら、行ってらっしゃいのキスなんて必要ない。
(やっぱりあの人のことがわからない)