大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜


 夢は燈里の腕の中から抜け出すと、一直線に男の元へと駆け寄った。
 男は両手を広げ、夢をしっかりと抱き止める。

 想定外の展開に燈里は呆気に取られてしまう。


「……あの、夢ちゃんのお父様ですか?」
「はい、そうです……」


 サングラスをかけていた時は厳つい人物に思えたが、素顔はとても気弱そうに見えた。

 夢の父親は離婚して別居しており、一目夢の姿が見たくて園の周りをウロウロしていたのだそうだ。
 夢に嫌われているのではないかと思い、真正面から会いに行く勇気がなかったらしい。


(まさか夢ちゃんのお父さんだったなんて。まあでも、よかったかな)


 夢の父は怖がらせ、騒がせてしまったことを謝罪した。
 夢は久しぶりに父親に会えたことを喜んでおり、ずっとご機嫌だった。


「いやまさか、夢ちゃんのお父さんだったとはねぇ」


 子どもたちがお昼寝をしている時間、副担任に子どもたちを任せて燈里は九原と共に用具倉庫に向かっていた。
 運動会の練習で使う用具を取りに行くためだ。


「ええ、変な人じゃなくて良かったです。夢ちゃんも喜んでましたし」
「あんな格好してたら不審者だと思っちゃいますけどね」
「ふふ、そうですね」


 そんな会話をしながら、玉入れのカゴや大玉、障害物走に使うフラフープといった用具を取り出して行く。
 燈里はリレー用のバトンを取ろうと思ったが、上の棚にあって届かない。

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