大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜
九原は笑っていた。両目を細めてニッコリと微笑んでいた。
その笑顔があまりにも不気味で恐ろしい。
「全く、酷いことしてくれますよね。よりにもよって利き腕をやるなんて、不自由で仕方ないんですよ」
「あ、あなた誰ですか……?」
「えー、何言ってるんですか?九原ですよー」
道化のように笑う九原は燈里の知る九原ではない。
たった数秒のうちに親しいと思っていた同僚が、得体の知れない人物へと変貌してしまった。
燈里は全身から冷や汗が溢れ出て、震えが止まらない。なのに金縛りのように動けない。
(お兄ちゃんに撃たれたって、まさか……!)
「まあ、九原は偽名ですけどね。普段は不知火って名乗ってます」
「……っ!!」
九原の正体は兄を殺した仇、巨大詐欺グループのボス・不知火だった。
燈里は震えが止まらず、言葉を発することができない。
まさかこんなに身近に朝晴を殺した人物がいたなんて思ってもみなかった。
(どうしよう、嶺士さん……!)
スマホは職員室に置いて来てしまった。
不審者が夢の父だったことで安心して、もう大丈夫だろうと思ってしまったのだ。
とにかく一刻も早く逃げなければ。
そう思うのに全身が硬直して動けない。
「いやあ、まさかあの満咲に嫁ぐとは思ってなかったですよ。ガード固すぎてどうしようかと思ったけど、どうやらツキはこっちに回ってきてるみたいですね」
「……っ!!」