大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜
大嫌いな人
「ともりせんせえ、さよーなら!」
「夢ちゃん、さようなら!」
最後のお迎えをお見送りし、水鏡燈里はふうと息をつく。
今日も園児たちが何事もなく元気に過ごせて良かったと、心から安堵した。
子どもたちは帰ったが、燈里の仕事は終わらない。
学芸会に向けた小道具作りという仕事が残っている。今日は背景となる大きな木を作ろうと思っていた。
保育士の仕事は大変だ。
だが、子どもの笑顔を見ていると明日からも頑張ろうと思える。
今日の仕事を終え、スマホを確認するとカレンダーの通知が出ていた。その予定を見て、もうすぐなのかと肩を落とす。
「もう二年になるんだね……お兄ちゃん」
二年前、燈里の兄・朝晴が亡くなって以来、燈里の時間は止まっている。
どんなに楽しく子どもたちと触れ合っても、時に慌てたり困ったことが起きても、仕事をしている間は忘れられた。
でも、仕事が終わると途端にスイッチが切れる。動いていた時計が急に針を止めるのだ。
そうなると、兄のいない空虚さに胸を押し潰されそうになる。
兄の朝晴は刑事だった。
昔から正義感が強くて優しく、困っている人を放っておけない好青年。
父親のいない燈里にとっては父親代わりでもあり、頼りになる大好きな兄だった。