大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜
らしくない行動の裏には、そんな意図があったのだ。おかげで助かった。
「ありがとうございます……」
「絶対に守り抜くと言っただろう?」
そう言って嶺士はもう一度燈里を抱きしめる。
嶺士の腕の中は安心して、更に涙が溢れた。
他に沢山の人が見ているのは気づいていたが、今はもう少しこのままでいたかった。
抱きしめられる手から伝わる嶺士の温もりが、燈里を優しく包み込む。
恐怖で凍り付いた心を溶かしてくれる。
この手の温かさ、優しさは偽りなどではない。
嶺士は本気で燈里を思い、心から心配してくれているのだと思った。
だからこそ、真実が知りたいと思った。
「嶺士さん、教えてください」
ずっと冷酷無慈悲で非道な男だと思っていた。
でも、本当はそうでないことに薄々気づいていた。気づいていながら気づかないフリをして、蓋をしようとしていた。
嶺士と本気で向き合うことから逃げていたのだ。
「あなたは本当に兄を一人で行かせたのですか?」
「……」
嶺士の黒檀色の瞳が僅かに揺れる。
燈里は真っ直ぐ嶺士の瞳を見つめた。絶対に目を逸らさないという意志を込めて。
「……わかった、本当のことを話そう」
嶺士もまた、覚悟を決めた表情で燈里を見つめ返す。
燈里の止まっていた時計の針が、微かに動く音がした。