大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜


 しかし、その祈りが届けられることはなかった。


「朝晴っ!!しっかりしろ、朝晴!!」


 駆け付けた現場にいたのは、朝晴の変わり果てた姿だった。
 銃弾を受け、血まみれになって倒れる朝晴は既に息がなかった。

 その手には拳銃が握られていた。


「朝晴、朝晴っ!!」


 誰もいない真夜中の某所、嶺士の悲痛な叫び声だけが響き渡る。


(俺の責任だ。俺がもっとちゃんと止めなかったから……)


 命令を無視したのが朝晴だったとしても、一人で行かせてしまった自分の責任だと思った。

 朝晴の葬儀で嶺士は朝晴の母と妹に謝罪をした。
 一人で行かせた自分の責任である、と。

 妹の燈里は泣きながら嶺士を糾弾した。


「あなたのせいでお兄ちゃんは……っ!!お兄ちゃんを返してっ!!」


 燈里の瞳には、はっきりと嶺士の姿が映し出されていた。兄を見殺しにした最低な上司として。
 兄が亡くなる原因をつくった男への怒りと憎しみが込められていた。

 朝晴が妹を可愛がっていたように、燈里にとっても大切な兄だったのだろう。
 最愛の兄を奪ったのは、紛れもなく自分だ。
 憎まれても当然だと思った。

 嶺士は今回の責任を取り、辞表を提出しようとしたが上層部の者たちがこぞって引き止めた。


「満咲家の者を辞めさせるなんて、そんなことできるわけがない」
「頼む嶺士くん、思いとどまってくれ。君にはいてもらわないと困るんだ」
「嶺士くんは止めたんだろう?なら君だけのミスというわけではない」

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