大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜


 懇願するおじさんたちの姿を見て、嶺士は悟る。
 彼らが恐れているのは、満咲という権力だ。
 満咲家の人間に泥を塗るわけにはいかない。結局のところ皆我が身がかわいいのだ。


(……何が正義のヒーローだ)


 権力を恐れる者にも、部下で親友の命すら守れない自分にも嫌気がさした。
 それでも自分はこれからも警察を続けるしかない。


(不知火は絶対に俺の手で捕まえる)


 嶺士は朝晴の墓前に誓った。
 そして朝晴に代わり、朝晴の家族のことも陰ながら守ることを誓う。

 一生憎まれたままでも構わない。許してもらおうなんて一ミリたりとも思っていない。

 近づかないから、遠くからでいいから守らせて欲しい。
 これは朝晴を死なせてしまったことへのせめてもの償い、だけではなかった。

 ただ、燈里には生きていて欲しい。笑っていて欲しい。
 彼女に恋焦がれた男の、一方的な切なる願い。ただそれだけだった。


 * * *

 朝晴が亡くなってから、二年の月日が流れる。

 相変わらず事件は大きな進展はなかったが、手掛かりはあった。それが朝晴の持っていた拳銃から発砲されたと思われる銃弾である。

 拳銃は一発発砲されたことがわかっていたが、銃弾は見つからなかった。
 更に血痕らしき黒いシミが現場に残されており、朝晴は犯人を撃っていた可能性がある。

 そして各病院を調査したが、弾痕を取り除いたという手術歴は見つからなかった。

< 40 / 53 >

この作品をシェア

pagetop