大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜
墓所にあるトイレに駆け込み、燈里は思い切り吐いてしまった。
疲れが溜まっていたのか、安心したことで気が緩んだけどずっと張り詰めていたのだろうか。
そう考えた直後、ハッと気づいた。
「大丈夫か、燈里?」
トイレから出てきた燈里を嶺士は心配そうに見つめる。
「嶺士さん、病院に行きたいです」
「わかった、馴染みの医者のところに行こう」
「あの、できれば産婦人科に」
「えっ」
珍しく嶺士の瞳が大きく見開かれた。
しばし燈里を凝視した後、明らかに視線を泳がせる。
「そ、そうか。わかった」
月のものがきていないことに気づいてしまった。
まさかとは思いつつ、その可能性は十分に考えられる。
病院へ向かう車の中、燈里も嶺士も無言だった。
嶺士は少し動揺していたようだったが、今はいつもの無表情に戻ってハンドルを握っている。
嶺士はどう思っているのだろう。
燈里は自分のお腹をさする。
もし嶺士との子どもが宿ったのだとしたら、こんなに嬉しいことはない。
結婚する前から自分の子どもを持つことは、子ども好きな燈里の大きな夢だった。
それが愛する人との子だったら尚更嬉しい。
契約結婚が決まった時は、それは叶わないのだと思っていたけど、今は違う。今は嶺士のことが好きだ。
(嶺士さんはどう思っているのだろう……?)
子どもが欲しいと言って何度も抱かれたけれど、彼の本当の気持ちはわからない。
先程も動揺していたようだし、お家のために子どもが欲しかったけど本当は子どもが好きではないのかもしれない。
燈里は不安を抱えたまま、産婦人科医院へ向かった。