大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜
自分でも何を言い出すのだろうと思っていた。
嶺士は振り向き、戸惑った様子で燈里を見返す。
「いや……流石にそれは」
「キスくらいしてくれたっていいじゃないですか」
思わず本音がこぼれ出てしまった。
嶺士が驚いた表情に変わったのがわかり、燈里は恥ずかしくて嶺士に背中を向ける。
「燈里っ」
「何でもないです、忘れてください」
子どもみたいに拗ねてしまう自分が馬鹿みたいだ。
どうしてだか、嶺士の前では素直になれない。
「燈里、こっちを向いてくれ」
なのにずるいなぁと思った。
そんな風に切なく懇願するような声を出されてしまったら――抗えないではないか。
おずおずと嶺士の方に体を向けると、引き寄せられて胸の中に閉じ込められた。
「すまない……ずっと自己嫌悪に陥っていたんだ」
「自己嫌悪ですか?」
「その、あまりにも自分が身勝手だなぁと思って」
嶺士の腕に抱かれたまま、燈里はきょとんとして嶺士を見つめる。
部屋が暗くてわかりにくいが、嶺士の頬がほんのり赤く染まっているような気がした。
「子どもが欲しいと思っていたし嬉しいはずなのに、その……これからは燈里を独占できなくなるのかと思ってな」
「え?」
「もっと二人きりの時間が欲しかったなどと身勝手なことを考えてしまう自分が情けなくて。自己嫌悪に陥っていたんだ」