大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜


 朝晴は命を落とした。
 たとえ詐欺グループを取り逃すことになっても、一人で行かせるべきではなかった。

 一人じゃなければ、兄は今頃生きていたかもしれないのに。


「あなたのせいでお兄ちゃんは……っ!!お兄ちゃんを返してっ!!」


 葬儀で他の人の目もあったのに、燈里は大声で泣き叫んでしまった。
 そんな燈里のことを、嶺士は真顔で見つめていた。

 泣きじゃくって嶺士を罵る燈里のことを、どんな風に思っていたのかはわからない。
 眉一つ動かさず、ただ黙って燈里の言葉を聞いていた。

 燈里はなんて冷酷な男だろうと思った。
 同期で部下だった朝晴を亡くしても、涙一つ流さない。血が通っているのかと疑った。

 それから二年の月日が断とうとも、燈里の時間は動かない。
 嶺士のことを許すことなどできるはずがない。


「お母さん、大丈夫?」
「大丈夫よ、燈里」


 母の智佳子(ちかこ)は元々体が弱かったが、朝晴を亡くしてから一層体調を崩すようになり、入院しがちになってしまった。
 女手一つで育ててきた息子を自分より先に亡くすのは、母にとっても大きな傷となったことだろう。

 今は保育士の仕事をしながら、智佳子のことを支えている。
 朝晴がいない今、母を守れるのは自分だけだという思いが強かった。

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