大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜


 朝晴の命日、母と二人で墓参りに行った。
 墓石の前まで行くと、既に線香が上がっている。どうやらついさっき上げられたものらしく、線香はまだ長い。

 去年もそうだった。
 燈里たちが来るよりも先に誰かが尋ねて来ており、線香を上げた人物がいたのだ。


「今年も来てくれた人がいるのね」
「そうみたい……」


 智佳子は有り難そうにしていたが、燈里は何となく誰なのか知りたくないと思った。

 墓石を綺麗にして、花を替える。線香を上げて両手を合わせた。
 両手を合わせても、燈里は兄にかける言葉が思い浮かばない。

 ただ、なんで?と問いかけたくなってしまう。
 どうして兄は殺されなければいけなかったのか。せめて犯人が捕まったと報告できたら良かったのに。


(お兄ちゃんに会いたい……)


 じわりと涙腺が緩むのを感じ、燈里はかぶりを振った。
 泣いてる姿など智佳子には見せられない。自分がしっかりしなければ。
 そう言い聞かせて燈里は自分自身を鼓舞する。


「お母さん、そろそろ……」
「そうね」


 積もる話があったのだろうか、智佳子は随分長く手を合わせていた。その目には少し涙が浮かんでいた。

 そんな母を支えながら、帰ろうとしたところだった。
 駅に向かって歩こうとした時、目の前に止まっていた黒塗りの車からスーツの男性が出てくる。

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