大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜
特に気に留めてはいなかったが、そのスーツの男はこちらへ近づいてきた。それどころか、真っ直ぐ燈里と智佳子の方に向かってくる。
「失礼。水鏡さんですか?」
「はい、そうですが……」
燈里は咄嗟に智佳子の前に立つ。直感的に母を守るべき、と警報が鳴っていた。
「署までご同行願えますか?水鏡朝晴巡査部長の件で大事なお話があります」
朝晴のことで大事な話?燈里は思わず眉をひそめる。
「……警察の方でしょうか?それなら警察手帳を見せていただけますか?」
「……」
するとスーツの男性は急にグイッと燈里の腕を引っ張った。
「いいから来い!」
「なっ……!」
いつの間にか背後にもう一人男が現れ、同じように智佳子の腕を引っ張り車の中へ連れ込もうとしていた。
「お母さんっ!」
「燈里……!!」
必死にもがいて抵抗しようとするが、腕を後ろに回されて強く掴まれ、振り解くことができない。
一体この者たちは何者なのだ。
あと一歩、車に押し込まれそうという時、突如バキッ!という鈍い音がした。
突然腕が振り解かれたかと思えば、男は地面に転げて伸びている。
その直後、もう一人の男も倒れ込んだ。
自由になった燈里は、すぐに母の元へと駆け寄った。
「お母さん!」
「燈里!」
「怪我はありませんか?」
声の主を見た時、思わず燈里の全身の血が迸るのを感じた。