【完結】国宝級イケメンの華道家は、最愛妻への情愛が抑えられない。
第一章

◇千曲鳳翠



 稽古着であるお気に入りである芥子色の着物を来て帯を締める。建物内にある【お稽古室・桜】という稽古部屋に入ると荷物を置いた。


「……よし、やるか」


 スマホの音楽アプリに登録してある曲【藤娘】をタップしてスピーカー機能のある機械にセットすれば、いつもと同じ三味線の音が聞こえ『津の国の――』と唄が始まり踊り始めた。

 この長唄である藤娘は、日本舞踊といえば藤娘(これ)!と言われるくらい有名な曲であり藤の花の精が娘の姿で現れて女心を踊る作品のこれは私の大好きな演目だ。
 部屋のドアが勢いよく開いて、踊り始めたばかりだが、音楽を停止させた。


「百合乃、邪魔するよー」

「……慶翠(けいすい)さま、返事してないです。言ってください」

「どうせ言っても聞こえないだろ? それに慶翠とか他人行儀はやめろよ。お兄ちゃんだろ?」



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