【完結】国宝級イケメンの華道家は、最愛妻への情愛が抑えられない。
「それに妃菜乃のお墓参りをしてきたから」
「そうなんですね」
彼は懐かしむような、悲しそうな表情を見せる。
彼が言う妃菜乃とは私の姉で、二人は婚約者同士で想いあっていた。とても仲良しで、二人を見るのが好きだった。
だけど、姉が病気になった。それから一年足らずで亡くなった。姉と婚約していたけど、会うことも話すことも減っていたのでお葬式で久しぶりだった。
以前と同じ、私に笑いかけてくれて嬉しかった。ちゃんと話したのは学生ぶりで、婚約前だったなぁと思い出す。
だけどお葬式ぶりで久しぶりだ。
『久しぶりだね、百合ちゃんは妃菜乃に本当に……そっくりだ』
……彼には似てるなんて言われたくなかった。
確かに私は姉にそっくりで瓜二つだと言われている。だけどそれだけだ、私は姉には敵わない。天才肌で努力しなくてもなんでもこなす姉とは違い、私は努力しなくては何もできない。
大好きな日本舞踊だって姉が一日でマスターしていくのに私は茶道も華道もすぐにはできない。だから、学生の頃はよく言われていた言葉だった。
『顔はそっくりでもね、家元の娘なのに習得するのに時間がかかるんじゃ』
『妃菜乃さんは優秀な家元の娘なのに百合乃さんの方は“優”にはなれても“秀”にはなれないわよね。家元の娘なのに凡人というか』
周りの人から言われていたのは慣れているし、もう秀になれないことは諦めもついている。姉にはなれないことも分かるし分かりきっている。だから仕方ない。
でも、彼からは聞きたくなかった。
「――百合ちゃん?」
名前を呼ばれ、いつの間にか覗き込まれていたらしくハッとした。
「すみません、少し考えごとをしてました。……郁斗さんのいけばな楽しみにしてます」
「ありがとう。俺も百合ちゃんの公演楽しみにしてるよ」
そう言うと、次の仕事があるらしく郁斗さんは部屋から出て行った。
私は、一時停止していた音楽を再生にしてまた踊り出した。