お茶と妖狐と憩いの場
序章
 誰の為、何の為に人は生きるのだろう。
 それは誰も教えてくれない。
 知る由もない。
 それは自分で見つけるものと言う人もいるが、そんな簡単にはいく訳もない。
 世の中では正義と呼ばれるものも、誰かにとっては不都合な事かもしれない。
 そんな世界に正解などあるのだろうか。
 そもそも、正解など存在するのだろうか。

「――いたぞ! 捕まえろ!」
「そいつを始末しろ!」

 小さな村に常日頃聞こえてくる叫び声。
 私はそれを聞くのが嫌いだ。だが村の人達はそうでは無いらしい。日々の暮らしに安寧を齎す集団、“妖葬班(ようそうはん)”の青年達が活躍しているのを確認できるからだろうか。
 妖葬班とは、私の住むこの村に“害を及ぼす妖”を倒したり、村を取り仕切ったりする組織だ。
 若い青少年が刀を振るう役割、引退した三十代以降の男性が村をまとめる役割。簡単に言えばそんな感じだ。
 村の子供達は妖葬班に憧れており、狭い村だからと言って誰でもなれる訳でもないその集団に入る為に努力をする。勉強、剣術、その他色々。
 だがそこに女性が入る事など許されない。真の男の世界だった。
 こんな小さな世界に住む私にとって、考えるだけ無駄なのかもしれないけれど。
 そんな妖葬班に入った少年達の母親はいたく喜び、妖が殺められるのを、息子達が刀を握り勝ち誇っているのを、微笑ましく見守っている。
 それを見て私は“怖い”と感じた。
 “害を及ぼす妖”とは一体なんなのか私には理解が出来ないからだ。何度か周りに聞いてみたこともあるが、皆一貫して「妖そのものが害」と答えた。
 そもそも、そう考える者はきっといない。
 妖そのものを消し去ろうとしている彼らは村の“英雄”なのだから――。
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