お茶と妖狐と憩いの場
「………はい……」
 助けてくれた本人の深守さんがそういうのなら、私も引き下がる他ない。
(……妖…、じゃなくて神様………?)
 妖もあまり直接目に触れることがないが、深守さんの風貌は確かに妖そのものというよりは、それに近い何かの様に見えた。
 この小さな村に、妖以外にも不思議な存在がいたなんて。
 ―――気の所為かもしれないが、見た目が先日の狐に似ているような気もした。綺麗な瞳…とか。
 だがそれを聞くのはなんだか今じゃないような感じがして、聞けなかった。
「…そ、それよりもさっきのは一体、なんだったんですか……? 折成…さんは、何者なのでしょう……」
 私は考えていた事を振り払い、深守さんに質問した。
 一度眠ってしまったからだろうか。一番大事なことを、落ち着いてる今なら聞ける気がしたのだ。
 すると深守さんはどこから話そうか、と頭を傾げる。
「折成…彼は鬼族(きぞく)ってやつよ。妖ね」
「やっぱり彼もそうなんですね…」
 鬼…か。角が生えていたから、きっと共通した特徴があれば皆仲間なんだろうか。
「それ以外のこともいずれ話す事になるとはいえ、まだ詳しい事は知らずにいてほしい……と言っちゃあ、ダメかしら…?」
 深守さんは腰に差していた扇子を取り出し開くと、口を覆い隠した。口調はおちゃらけてはいるが表情は真剣そのものだったから、私は大人しく肯定することにした。
「えっと、それより深守さんは…」
「ふふっアタシの事は深守で良いわよ。あと敬語もなしね」と、笑う。
「えっ…と、あの―――」
 言いかけた所で、ガラガラッと玄関を開ける音がした。
「…マズイわね」
 深守はさっと立ち上がった。神様でも基本、見つかるのは禁忌なのだろうか。
「結望、また今度お話しましょ」
 手を振りながら踵を返した。
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