お茶と妖狐と憩いの場
 その矢先だった。昂枝が障子を開き、深守と鉢合わせてしまったのだ。
「……は?」
 と、昂枝は顔を顰める。それもそうだろう。見ず知らずの男、しかも耳と尻尾が付いている只者ではない奴が目の前にいるのだから。
 昂枝は静かに中に入り、障子を閉めた。そしてそのまま私を庇う形になると、持っていた短刀を深守に突き付けた。
「誰だ」
「…っ…昂枝、違っ…違うの…!」
 私は深守を庇おうとした。しかし、深守は何もしなくて良いと、そんな表情をこちらに向ける。
「アタシは……深守よ」
 短刀は頬を掠めて血が滲むが、動じず、静かに挨拶をする姿はとても品があり美しい。こんな状況なのに、どうしてそんな事を思ってしまうのだろう。先程、あれだけの事があったというのに。
「深守…? お前……人間じゃないだろ」
「ふふっ、当たり。アタシはねぇ、ここら辺に住む神様ってやつかしら? 因みにその子を守りに来たんだけど…」
 ダメだったかしら? と、付け加えおどけてみせる。
「は、守りに来た…?」
 昂枝は半信半疑になりながらも、一度短刀を下ろした。私はそれを見て、ほっと胸を撫で下ろす。「………本当か?」と私の方を向く昂枝に頷くと、事情を説明する事にした。
「―――そういう訳で、命の恩人なんです…」
「…結望ちゃん、怪我してない?」
「…はい」
「良かった…」
 おばさんは安堵の表情を見せた。
「結望に何かあったら大変だもんな」
 昂枝に話をしている間に心配した昂枝のご両親も来てしまい、見つかってしまったのならいっそ、秘匿を条件に全てを話してしまおうという事になった。深守は少し苦笑していたが、宮守家の人なら問題ないと判断したのと、話さずに逃がしたらそれこそ危険に晒す事になると考えたのだ。実際、宮守家で深守を匿おうという話にまで広がっていた。
 そんな中、昂枝はまだ信じられないと言った面持ちで深守を一瞥する。
「……さっきはすまなかった」
 目を合わせる事はしなかったが、彼なりに謝罪を述べた。
「良いのよ。こういうの慣れっこだし。それよりほらほら、顔を上げなさいな。色男が台無しじゃないか」
 深守さんは持っていた扇子で口元を隠すと、にやにやと笑った。その余裕さを見て、昂枝は尚更信頼して良いのか不安になったのだった――。
< 11 / 149 >

この作品をシェア

pagetop