お茶と妖狐と憩いの場
「そう……、夫婦盃を交わした結望が、羅刹様の意識に入った時」紀江は立ち止まって言った。「あの子は、貴方に会いたがっていたわ」
深守は目を見開いた。
「……ねぇ、深守さん。こんな所にいてはだめ」深守の両手を握ると、紀江は真剣な眼差しで言った。
「……でも、あの子に合わせる顔なんてないんだよ」
深守は目を伏せて、結望の顔を思い浮かべた。
頭に浮かぶのはいろんな結望の表情。
だけどここ最近、彼女が泣いてる姿の方が沢山見た気がする。泣いているのは、間違いなく自分のせいだ。
深守は困った様に言った。
「アタシは……、いえ……ダメよ。結望の元へは帰れない。そもそも、アタシは死んだのよ? 紀江ちゃんだって此処にいるワケだし」
死んだ者が現世へ帰れるはずがない。あの時全ての力を使ったはずなんだから。
「――此処はね、深守さんの世界なのよ。深守さんは今深い眠りについてるだけ……。私はたまたま、……そう、たまたま夢の中に入れただけの部外者で、多分、旦那様のおかげで存在してる」
「羅刹様……?」
「ふふっ、そう、羅刹様。あのお方、心はお優しいのよ? 政略結婚と言われてやって来た私に優しく接してくださったわ。だからね、悪く言われるのはちょっぴり、心外なの。……騙された上に、食べられちゃったのに……。こんな事言うのおかしな話よね」
そう言って紀江は苦笑する。
「……脱線してしまったわ。えっと……、ね? つまり此処から出るには、きっと本人の思い次第だと思うのよ」人差し指を頬に当てて言った。
根拠は無いけれど、と付け足しながらも、紀江は自信たっぷりに宣言する。
「深守さんなら絶対に帰れるわ。私が保証する! だってほら、神様なんですもの……!」
紀江は深守の事を神様と表現した。
彼女は何かある度に、深守は私達の神様ね、と嬉しそうに言っていた過去がある。
だけど、その言葉に深守は大きく首を振った。「違う……アタシは神様なんかじゃないわ……っ」
膝を着くや否や、草花の上に雫を零す。
「……アタシは、あの子が苦しんでいる時に傍に居てやることも出来ない。アンタも……、結望も、危険に晒して満足に守ってやる事が出来なかった。っ大切な……、名前も貰ったってのに……、名に恥じぬ妖でありたかったのに、アタシは何も出来なかったんだよ……。オマケに勝手に結望の元から去ってしまった。そんなの、神様と言えないじゃない……っ!」
深守は目を見開いた。
「……ねぇ、深守さん。こんな所にいてはだめ」深守の両手を握ると、紀江は真剣な眼差しで言った。
「……でも、あの子に合わせる顔なんてないんだよ」
深守は目を伏せて、結望の顔を思い浮かべた。
頭に浮かぶのはいろんな結望の表情。
だけどここ最近、彼女が泣いてる姿の方が沢山見た気がする。泣いているのは、間違いなく自分のせいだ。
深守は困った様に言った。
「アタシは……、いえ……ダメよ。結望の元へは帰れない。そもそも、アタシは死んだのよ? 紀江ちゃんだって此処にいるワケだし」
死んだ者が現世へ帰れるはずがない。あの時全ての力を使ったはずなんだから。
「――此処はね、深守さんの世界なのよ。深守さんは今深い眠りについてるだけ……。私はたまたま、……そう、たまたま夢の中に入れただけの部外者で、多分、旦那様のおかげで存在してる」
「羅刹様……?」
「ふふっ、そう、羅刹様。あのお方、心はお優しいのよ? 政略結婚と言われてやって来た私に優しく接してくださったわ。だからね、悪く言われるのはちょっぴり、心外なの。……騙された上に、食べられちゃったのに……。こんな事言うのおかしな話よね」
そう言って紀江は苦笑する。
「……脱線してしまったわ。えっと……、ね? つまり此処から出るには、きっと本人の思い次第だと思うのよ」人差し指を頬に当てて言った。
根拠は無いけれど、と付け足しながらも、紀江は自信たっぷりに宣言する。
「深守さんなら絶対に帰れるわ。私が保証する! だってほら、神様なんですもの……!」
紀江は深守の事を神様と表現した。
彼女は何かある度に、深守は私達の神様ね、と嬉しそうに言っていた過去がある。
だけど、その言葉に深守は大きく首を振った。「違う……アタシは神様なんかじゃないわ……っ」
膝を着くや否や、草花の上に雫を零す。
「……アタシは、あの子が苦しんでいる時に傍に居てやることも出来ない。アンタも……、結望も、危険に晒して満足に守ってやる事が出来なかった。っ大切な……、名前も貰ったってのに……、名に恥じぬ妖でありたかったのに、アタシは何も出来なかったんだよ……。オマケに勝手に結望の元から去ってしまった。そんなの、神様と言えないじゃない……っ!」