お茶と妖狐と憩いの場
 あれから深守と手分けして作業に取り掛かったことでいつもより大分早く仕事が片付いた。
「……ふぅ…。終わりましたね」
「えぇ、綺麗になったわ」
 私達は辺りを見渡しながら呟いた。
 床の汚れも庭の落ち葉も、不要な物が全て無くなったことにより、見栄えの良い外観――人を呼びたくなるような気持ちになるような、そんな雰囲気になった。
「深守ありがとうございます。おかげで自分の時間も取れそうです」
「おや、何かやる事でもあるのかい?」
「あ、えっとそうですね…。着物のほつれを直そうかと思いまして」
 私は針で縫う素振りをしながら深守の方を向いた。
 深守は納得したように頷くと、
「なら早く中に入りましょう。こんなところいたら寒くて震えちゃうしね」
 とわざと身震いする仕草を見せた。
 家事をこなす時は体を動かす為そこまで寒さは気にならない。…というより気にしないようにしているけれど、確かに冬真っ只中の今。作業も終わり、特に何もしていない状態でずっと廊下に突っ立っていたら、カチコチに凍ってしまうかも。
 とはいえ私は、そこまで寒さが気になる体質ではなかった。着込んで作業をするのが苦手で、冬場も薄着でいたら慣れてしまったから。だからこのまま縁側に行ってまったり…とかも全然出来てしまう気がした。
 でも寒がる深守にそんなことさせるわけにはいかない。
「そうですね、場所を変えましょう」
 なるべく急ぎ足で囲炉裏のある場所へと向かった。
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