お茶と妖狐と憩いの場
―――婚礼の儀。
それは夫婦となる二人が結ばれる為の儀式。
鬼族の民の意向により、種族関係なく、沢山の大切な人達が祝いに来てくれた。
そこには海萊さん達もいて、鬼族の皆と盃を交わしていた。その姿を見て、変わったのだと実感した。
「少しずつだけど、ちゃんと……変わっていってるんですよ」
隣に並ぶ深守に言った。深守も「えぇ」と頷いて応える。
式が終わり、私達は二人外を歩いていた。騒がしい空間にいるのも楽しいけれど、静かに自分達の時間を過ごす為だ。
「まだまだやるべき事は多いだろうけど、それでも、着実に前に進んでいるのね」
深守は眠りから覚めて間もない為、状況を全て理解するには時間がかかりそうだが、それでも嬉しく思う気持ちが募っていった。
「アタシも、早くそのお手伝いしなくちゃあいけないわ」
「……まだ無理しなくても良いんですよ?」
「アタシはもう大丈夫さ。力を使えないだけだから」
深守は手を伸ばして、じっと見つめる。
彼は私の為に力を使い果たした。深守自身や、昂枝達もそう思っていた。妖として生きていた彼にとって死に値する行為で――だけど、奇跡的に生きていた。何故、彼が息絶えることなく、眠り続けたのかはわからない。それは深守本人にもきっとわからない事だろうから。
だけど――。
「……深守」
「なぁに?」
「どうして、目覚めることができたんですか……?」
私は深守を見上げる。
繋いでいた手に、一瞬だけ力が籠るのを感じた。
「……アンタの母に会ったのさ」
「お母様に……?」
「そ、紀江ちゃんにね。アンタのところに戻りなさいって、言われたの。……きっとそのおかげ」
深守はそう言うなり私を包み込んだ。
「目覚めたのが結望の誕生日だったのも……もしかしたら、紀江ちゃんのおかげかもしれないわね。……だってほら、結望を抱き締めるには一番の日じゃない?」
くつくつと笑いながら言った。
「アタシ……、あのまま死ぬんだと思ってた」
「……深守」
「ふふふっ、だって、アンタの為に死を選んだんだから当然の結果でしょ? ……でも、それを阻止する人達がいたお陰でアタシは帰ってこれた」
「……それは、感謝……しなくてはいけませんね」
「えぇ、本当に……」
私は深守から命を与えてもらったが、彼も同じく命を与えられた側だ。どんな理由であれ、深守が生きていた事が嬉しい。目覚めてくれた事が何よりで、奇跡なら、尚更。
「――ところでサ、もう知ってるでしょ。アタシが、アンタが赤子の時から面倒見てたこと」
深守は赤子を抱く素振りを見せながら、いつもの様に、困った顔で笑った。