お茶と妖狐と憩いの場
***
深守は考え事をしていた。
結望が落ち着きを取り戻した後、改めて着物のほつれを直す作業に入っていた為だ。まだ時間は十分にあったから…というのもあるが、何より彼女も、裁縫などの細かな作業をしている方が気が休まると思ったのだ。
用意してくれたお茶を飲み干ししばらく見守った後、洗濯物を取り込むと伝え外に出た。
一人になった今、それこそ自分の時間だ。己がやれることはただひとつ。鬼族の動きをいくらか予測し対策を練ること。
(鬼族の狙いが結望という事と、その理由もわかっているのに…)
正直、どう攻めてくるかが長年生きてててもわからなかった。
明日また来るのか、一週間、はたまた一ヶ月後なのか…。“結望の誕生日に合わせて”来るのか…。
(………)
後、昨日結望を攫おうとした折成。彼は自分の中で、そこまで問題視はしていない下っ端の一人だ。ただ、結望を連れて行くにあたって、武器を使い、邪魔する者を排除しようとするには違いない。
(まぁ、そんな簡単に行くわけないって話なんだけどね…)
洗濯物を全て取り込むと、今度は畳む作業に取り掛かる。一番近くにある狭めの座敷に運び直し腰を下ろすと、考え事の続きをしながら洗濯物を一枚ずつ、丁寧に折り曲げていく。
――折成は槍を駆使する。鬼族は妖の中でも強いとされていて、鬼族が共通して持つ能力…正確には能力ではないとされているが、“怪力”がこの先不安要素となる。馬鹿力を持つ鬼族である折成が槍を使えば威力は抜群。どれだけ固くて太い木の幹だろうが一発で倒してしまう。
鬼族が他と違うところはそれだけではない。鬼族は一般的な妖とは違う特徴をしていた為に、名前を鬼族と名乗り一族でまとまって暮らしている。寿命は二千から三千とも言われ、正直定かではないところも不思議だ。
因みに他の妖はそれぞれ個体差があり、与えられた能力もまちまち…。力を使い切った時が寿命だとも言い伝えられており、長生きしたいものは使わずに千年単位で生きている。
(アタシは神様…と名乗っているものの、言ってしまえば妖狐の類なのよね)
そんな自分の能力は“治癒”。怪我や病気をした時の回復力が他より長けており、それは勿論他人にも使える。目の前で危険だと判断した時に式を出して守ることも、それなりには可能ではある。
(…何だか、こうなる事がわかっていたかのよう)
自分の能力と、今の状況を比べて苦笑をしてしまう。回復力があっても、鬼族に対抗できる程の力がなければ意味はないが、無関係な能力ではない。
だが、“この十数年”アタシは力をつけてきた。全てこの時の為に。
(結望の為に存在できるなら、本望ね…でも…)
まだ、何も知らないでいて欲しい。後で全部話すから、今は――。
(結望……)
「深守…」
ハッとして顔を上げる。目の前には首を傾げながらこちらを見つめる結望の姿があった。
「深守、そろそろ私…夕飯を作ります」
「あ、お裁縫は終わった…?」
「はい…おかげで捗りました。心も、大分休まったようです」
結望は着物を顔の元へやると優しく微笑んだ。それを見てほっと胸を撫で下ろす。
「…そう、よかったわ。アタシも畳み終わったら一緒に夕飯、作ってもいいかしら」
何となく、聞いてみる。もし自分が邪魔ならそれはそれで一人にさせてあげたいと思っていたが、結望は特に間を開けることなく「是非、一緒に作りましょう」と嬉しそうに笑ったものだから、彼女の優しさに甘える事にした。
深守は考え事をしていた。
結望が落ち着きを取り戻した後、改めて着物のほつれを直す作業に入っていた為だ。まだ時間は十分にあったから…というのもあるが、何より彼女も、裁縫などの細かな作業をしている方が気が休まると思ったのだ。
用意してくれたお茶を飲み干ししばらく見守った後、洗濯物を取り込むと伝え外に出た。
一人になった今、それこそ自分の時間だ。己がやれることはただひとつ。鬼族の動きをいくらか予測し対策を練ること。
(鬼族の狙いが結望という事と、その理由もわかっているのに…)
正直、どう攻めてくるかが長年生きてててもわからなかった。
明日また来るのか、一週間、はたまた一ヶ月後なのか…。“結望の誕生日に合わせて”来るのか…。
(………)
後、昨日結望を攫おうとした折成。彼は自分の中で、そこまで問題視はしていない下っ端の一人だ。ただ、結望を連れて行くにあたって、武器を使い、邪魔する者を排除しようとするには違いない。
(まぁ、そんな簡単に行くわけないって話なんだけどね…)
洗濯物を全て取り込むと、今度は畳む作業に取り掛かる。一番近くにある狭めの座敷に運び直し腰を下ろすと、考え事の続きをしながら洗濯物を一枚ずつ、丁寧に折り曲げていく。
――折成は槍を駆使する。鬼族は妖の中でも強いとされていて、鬼族が共通して持つ能力…正確には能力ではないとされているが、“怪力”がこの先不安要素となる。馬鹿力を持つ鬼族である折成が槍を使えば威力は抜群。どれだけ固くて太い木の幹だろうが一発で倒してしまう。
鬼族が他と違うところはそれだけではない。鬼族は一般的な妖とは違う特徴をしていた為に、名前を鬼族と名乗り一族でまとまって暮らしている。寿命は二千から三千とも言われ、正直定かではないところも不思議だ。
因みに他の妖はそれぞれ個体差があり、与えられた能力もまちまち…。力を使い切った時が寿命だとも言い伝えられており、長生きしたいものは使わずに千年単位で生きている。
(アタシは神様…と名乗っているものの、言ってしまえば妖狐の類なのよね)
そんな自分の能力は“治癒”。怪我や病気をした時の回復力が他より長けており、それは勿論他人にも使える。目の前で危険だと判断した時に式を出して守ることも、それなりには可能ではある。
(…何だか、こうなる事がわかっていたかのよう)
自分の能力と、今の状況を比べて苦笑をしてしまう。回復力があっても、鬼族に対抗できる程の力がなければ意味はないが、無関係な能力ではない。
だが、“この十数年”アタシは力をつけてきた。全てこの時の為に。
(結望の為に存在できるなら、本望ね…でも…)
まだ、何も知らないでいて欲しい。後で全部話すから、今は――。
(結望……)
「深守…」
ハッとして顔を上げる。目の前には首を傾げながらこちらを見つめる結望の姿があった。
「深守、そろそろ私…夕飯を作ります」
「あ、お裁縫は終わった…?」
「はい…おかげで捗りました。心も、大分休まったようです」
結望は着物を顔の元へやると優しく微笑んだ。それを見てほっと胸を撫で下ろす。
「…そう、よかったわ。アタシも畳み終わったら一緒に夕飯、作ってもいいかしら」
何となく、聞いてみる。もし自分が邪魔ならそれはそれで一人にさせてあげたいと思っていたが、結望は特に間を開けることなく「是非、一緒に作りましょう」と嬉しそうに笑ったものだから、彼女の優しさに甘える事にした。