お茶と妖狐と憩いの場
「……」
 深守はほんの少し困惑した様に、だけど嬉しそうな表情を浮かべると一度頷いた。
「足…鼻緒擦れ起こしてしまったの、治してくれたの深守、です…よね…?」
「あぁ、この前言ってたやつか」
 昂枝は思い出したように呟く。
「…ふふふ、ご名答」
 そう言うと、深守は私を抱き締めた。
「ずっと会いたかったのよ、結望」
 先程と同じように優しく包み込まれ、言葉を失う。自分達だけならまだしも、今は宮守家の三人も揃っているのだ。
「なっ…!?」
 昂枝は目を丸くして固まる。
「し、深守…恥ずかしいです…」
 皆には言えないけれど、これでも沢山泣いて慰めてもらった後なのだ。それが露呈してしまったら全員に迷惑がかかってしまう。何より、昂枝が勘違いして深守を追い出すかもしれない。それは、嫌だ。
「…結望に気安く触れるな!」
「あいたっ」
 昂枝は持っていた笏で深守の首をトンッと弾く。
「んもう…アタシと結望の仲なんだからいいじゃないの」
「お前だからだよ! 昨日出会ったばかりの、…いや、一週間前出会ったばかりの男…よく考えたらお前は喋り方といい本当に男なのかも謎だな。尚更結望を触る権利無し!」
 そう言うなり私の肩を抱くと、無理矢理深守から私を引き剥がした。
「た、昂枝…」
「……で、自分が触るってワケね」
 くつくつと深守は笑う。
「~~~ばっっっっかじゃねぇの!!」
 昂枝は何故か顔を赤くすると、私から身を離した。
「す、すまん…」
「…? うん」
「……ちょっと三人とも、早くしないとご飯冷めちゃうわよ?」
 間を見計らってか、おばさんが声をかけてくる。私達はご飯を他所に喋って、尚且つ二人を無視していた。申し訳なさでいっぱいになり、慌てて定位置に移動する。
「…座りましょうか」
 改めて考えると、おじさんおばさんに見られていたのがとてつもなく恥ずかしく思えてくる。
(……だけど、深守があの狐ってわかってよかった)
 不意打ちではあったが、話の流れを作ってくれたことに感謝した。
「――では頂くとしよう」
 おじさんの挨拶と共に、私達は夕飯を食べ始める。
 やっぱり楽しく作った料理はいつもと同じ食材でも、とびきり美味しく感じてしまうのは不思議で、ちょっとした幸せなのかもしれないと思った。
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