お茶と妖狐と憩いの場
***

 数日後、私と昂枝は村外れにある一件の古民家へ向かうことになった。外出ともなると幾つかの不安要素があったが、昂枝が必ず傍に付いていること、深守も森に隠れているとのことで外出許可が下りたのだ。
「じゃあ、行ってくるから」
「いってきます」
 おじさんおばさんに挨拶をし、私達は裏口に出る。村の表通りを歩くと住民達とすれ違う可能性が高い。それを心配してか、裏の抜け道を選んでくれたのだ。昂枝が一緒にいるからか、人気の無い道でもそこまで怖くは感じなかった。
「……“想埜”、元気かなぁ…?」
 想埜と前回会ってからどのくらい月日が経ったのか、私は指を折りながら思い出す。同じ村に住んでいるのに三ヶ月程会っていない。
「あいつなら大丈夫でしょ」
 昂枝はのんびり欠伸をしながら答えた。
 確かに想埜の性格的に、病気や怪我をしなければそこまでの心配をする必要はなさそうではある。頭の中で想像し「ふふっ」と笑みを零した。しかし、たまには心配でもしないと可哀想だろう。
「今日は何しよっか」
 遊びに行く訳ではないのに、お祭り気分だ。それだけ数少ない友達に会えるのは嬉しい事だった。
「また想埜の奴そぼろ丼用意してそうだよな」
「…確かに。想埜といえばそぼろ丼よね」
 彼はそぼろ丼が好きなのだ。こうやって会いに行く度にそぼろ丼を御馳走になっている気がする。だがそれもお決まり事の様で楽しみになっていた。
 鼻歌交じりに歩く私に昂枝は「呑気だな」と笑ったのだった。
 半刻程歩いた頃だろうか、林の間を抜け一軒家と言うのに相応しい程ぽつんと建つ古民家が見えた。想埜の家だ。畑には既に想埜が立っており、出迎えてくれた。
「昂枝~! 結望~! 久しぶり~!」
 想埜は右手をぶんぶんと振りながら駆けてくる。
「久しぶり。凄く大きな大根ね。収穫したの?」
「そう! さっき掘り起こしてみたら特大のすんごいやつ出てきちゃった」
 想埜は自慢だ! と言わんばかりの表情で巨大な大根をこちらへと差し出した。キラキラとした想埜の笑顔と、大きな大根に私は小さく拍手をしながら「かっこいいわ」と呟いた。
 それを見た昂枝は私の隣で小刻みに震え始め、目頭を押えた。これも毎回見る光景だった。昂枝は想埜の前だと常に笑っている。それだけ気を許せる相手なのだろう。家にいる時はあまり見られない光景なので嬉しくなる。
「あ、ぬか漬けにしたら持ってく?」
 想埜は大根を抱き締めながら言った。まるで大根が子供の様に見えるその姿に、私はふふっと笑みを零す。
「そうだな。両親も喜ぶと思うよ」
 そう昂枝が答えると、嬉しそうに戸口へと向かって行く。
< 22 / 149 >

この作品をシェア

pagetop