お茶と妖狐と憩いの場
 しかし私達は仕事での付き合いという感覚はなく、良き友好関係を結んでいると考えた方が近い。同世代だからというのも勿論あるけれど、馬が合っている気がするのも大きな理由だ。
「俺は別に苦じゃないよ」
 昂枝は気落ちしている想埜を見ながら笑った。
「…! じゃあとびきり美味しいの作るね!」
 想埜は改めて、ぬか漬けを作るぞと意気込んだのだった。
 中へ入るよう促され、私達は引き戸を開ける。
「ごめんね~毎度毎度何も無くて」想埜は適当に座ってと促しながら言う。
「いや、構わない。こちらから押しかけているもんだし」
「…お邪魔します」
 私達は腰を下ろす前に想埜に手土産を渡した。無難だが、饅頭だ。お茶のお供にはなるし、物によっても味が少しづつ違ったりする事もある。比べてみるのも楽しいからと、定期的に用意している。
「ありがと~! お饅頭だ! やっぱ好きだな~」
「想埜、なんでも好きでしょう」
「えへへ、確かにそうだ。は~お饅頭食べるの楽しみ~。早速後で頂くよ。でもその前にみんなでお昼ご飯食べよっ!」
 ――そんな訳で昼食だ。私達の予想通り、目の前に出されたのはそぼろ丼だった。
「じゃじゃーん! ほかほかの出来立て、そぼろ丼でーす!」
 想埜はお茶碗にご飯をよそい、それぞれの量を確かめると盛り付けた。うん、とても良い香り。そぼろ丼は見ての通り素朴な見た目をしているが、それでいてとても美味しい。想埜がそぼろ丼を好きになるのもわかる気がする。服装もなんだかそれっぽい色合いだし、わざとかな? なんて、まじまじと見ながら考える。想埜はぽかんとして、自身の着物に目をやった。
「ご、ごめんね。想埜の見た目もそぼろ丼っぽいなぁって思っちゃって」
 昂枝はそれを聞いて吹き出した。本当に壺に嵌っている。それを見て「もう!」と頬を膨らませる想埜。凄く平和な時間。
 ここに深守がいたらもっと楽しかったのかな…とかついつい思ってしまう。想埜が深守の存在を“否定”しなければだけれど。
(いつかはみんなで遊べたら…いいな)
 私はそのいつかを夢見て想像するのだった。
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