お茶と妖狐と憩いの場
 お互い一歩も譲らず啀み合う。何ならアンタだって傷付けたくない。深守は訴え掛けた。
 その時、遠くから人の声が聞こえてくるのがわかった。折成はまだ気づいていないようだが善意で伝える。我々の敵が来ると。折成は「チッ」と舌打ちをする。二人は別れ、逃げる事を最優先にした。
 何故、我々は人間に手を出さないよう逃げるかといえば、人間に危害を加える事に意味をなさないからだ。関係性を元に戻せないのであれば、余計な事はしない。それに尽きるのである。
(最も、妖葬班より弱いコ達の方が多いのもあるわね…)
 それこそ彼らは見つかり次第やられてしまい、つくづく、この村周辺で生きることの難しさを思い知らされた。
 それに、神様だろうと鬼族だろうと妖だろうと向こうにとっちゃ関係ない話。逃げるか殺すかのどちらかしかないが、好んで人間を殺す程我々は幼稚ではない。
 誰にも手を加えず、結望を守れたら――それが一番だ。
 深守は狐の姿に戻ると、遠くから様子を伺った。
 ――一方で折成は、逃げ隠れながら先程の会話を振り返っていた。
 流れであんな事言ってしまったが“これ以上”誰かが死ぬのを見るのはもうごめんだった。だがそれを伝えたところで何も意味が無い。“あの人”は絶対に俺達を許さない。ただ邪魔者を排除して、“あの御方”の為に尽くし続けるだけだ。
(どの道狐と俺は生きる世界が違うんだよ。ふざけるな! 俺は、……俺は何も悪くねぇ!!)
 もう一度舌打ちをすると、走る速度を上げたのだった。
< 26 / 149 >

この作品をシェア

pagetop