お茶と妖狐と憩いの場
 ――日が落ちる前には帰らないとと思いつつ、楽しくて時間があっという間に過ぎてしまう。私と昂枝は窓の外を見てはっと気づいた。
「もうこんな時間か」
「いつも引き止めてごめんね」
 想埜は困った様に言う。
「そんな事ないわ。私達が此処にいたいだけなの」
「あぁ、そうだな」
 昂枝と頷き合う。想埜は今にも泣き出しそうな目をしながら帰り支度をする私達を手伝ってくれる。午前約束したぬか漬けは予定通り明日、昂枝が受け取りに行くとの事で一旦お暇することになった。私は明日の夕飯の献立を考え始める。
「畑までだったら送るよ」と想埜が戸口に向かって行き勢いよく開ける。すると目の前には見覚えのある袖なし羽織を着た男の人達が立っていた。
「あっ……」
 想埜はそれを見るとさっきまでの表情とは裏腹に真剣な顔付きになる。
(ひさぎ)想埜、少々話を伺っても良いか」
 手前に立ち想埜に話しかける男の人、確か…。
「…えぇ、何でしょうか。海萊(かいり)さん」
 海萊さん。そうだ、妖葬班の中でも活躍が目まぐるしく、次世代の担い手になるだろうとされている人。キリッとした顔立ちに、肩くらいまである髪の毛を半分だけ結っているのが特徴だ。そして、首元には妖葬班の各班長を意味する銀灰色の飾りを付けていた。
「近頃何か変わった事はないか」
「いえ、特に何も…」
 想埜は何の事だ? と考える。私達二人も顔を見合せた。真剣な面持ちだから何かとんでもない事が起きたのかと思ったがそうではなさそうだ。それを見て海萊さんは「そうか…」と顎に手を当て考える。後ろにいた班員二名は何も喋らない。片方は初めて見る顔だがもう片方は見た事があった。というより、この人と海萊さんはいつも一緒にいる気がする。
「ここ最近、この近くに妖がいるとの噂を聞き付けた」
 海萊さんは言った。妖葬班の事だ、妖関連だとは思ったが、正直な話わざわざ言いに来る事だろうか。普段からあれこれ構わず退治している印象しかないのに。だから私はこの集団が苦手だった。
 それなら仕方ないと呟くと、海萊さんは踵を返す。
「不審なことがあったらすぐ伝えるように。…宮守の者達もな」
 私を見ても何も言わず、軽く手を振るとそのまま歩き出した。後ろにいた班員の片方はこちらに軽く会釈をすると小走りで海萊さんの後ろについて行く。もう片方の班員はと言うと、想埜を見て申し訳なさそうな顔をした。
「……ごめんなさい。想埜、皆さん」
 私達三人を見て謝罪をする。
「あっ、えっと、気にしないで良いよこれが仕事なんだし。それよりお疲れ様、海祢(あまね)
「…ありがとう」
 海祢と呼ばれた青年は頭を下げる。関係性を知らない私は二人を交互に見た。それに気づいた海祢さんは「あ」と声に出すと教えてくれる。
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