お茶と妖狐と憩いの場
――先刻、楸家に足を運んだ三人の妖葬班は結望と昂枝の少し先を歩いていた。
「例の妖の件だが」
海萊は足を止めることなく話を進める。
「想埜で間違いないと思う」
「えっ? でもあの人、人間じゃないですか」
一人の若い班員は驚き立ち止まる。その横で海祢も無言になってしまう。海萊は確かに妖を探すのが上手い。だが、相手は従兄弟の想埜だ。常日頃から会う訳じゃないが、親族として稀にだが村で会っている。
「年々あの周辺だけ強くなっているんだ。あいつは他の妖同様“逃げ隠れていたつもり”なんだろうが見え透いた嘘じゃ誤魔化せん。万が一があれば捕獲対象になるだろう」
それを聞いて海祢は海萊を引き止めた。
「なんだ海祢」
「兄さん、あの……」
「従兄弟だから同情してるのか?」
図星だった。想埜は大切な従兄弟で、友達みたいな関係性だ。そんな人に“捕獲対象”だなんて言葉を使いたくは無い。だが兄の海萊は違う。妖そのものを消滅させようとしているこの人は相手が血族でも関係無い。そもそもの話、想埜を怪しむ要素が何処にあるというのだ。ご両親は至って普通の…、思えば親族なのに顔を見た事がなかった。
「何の為に妖葬班に入ったか思い出せ。…行くぞ」
海萊は手を振り払うと、苛立ちながら歩き始めた。それを見て二人は何とも言えない面持ちでついて行くのだった。
想埜は友達二人と妖葬班の三人を見送り一人になると、戸口を閉めその場に崩れ落ちた。汗を流しながら顔を手で覆う。動揺で目は泳ぎ、息も少しばかり上がっている。
「嘘だ…」
両親との約束を守っていたのに、どこでどう間違えたというのかわからなかった。妖葬班に居場所を掴まれるなんて。もう、此処には居られないのか。この先どうしたらいいのか、誰も教えてくれやしない。
ならばいっそ死んでしまおうかと立ち上がり包丁を手に持つが、それも震えから落としてしまった。自身の弱さに失望する。そうだ、明日また昂枝が来ると言っていた。宮守の人なら何でも願いを叶えてくれるのでは。そう思ったがどう考えても馬鹿で無駄な事だ。人に罪を着せることは出来ない。
そもそも自分は何故、人を避け暮らしているんだっけ。もう忘れてしまった。
あぁ、もういっその事妖葬班に全てを任せてしまえば良いのかもしれない。海萊さんこそ何でも引き受けてくれるはずだ。言えば良いんだ。
「早く殺して下さいって…」
落胆しながら想埜は涙を流した。
「例の妖の件だが」
海萊は足を止めることなく話を進める。
「想埜で間違いないと思う」
「えっ? でもあの人、人間じゃないですか」
一人の若い班員は驚き立ち止まる。その横で海祢も無言になってしまう。海萊は確かに妖を探すのが上手い。だが、相手は従兄弟の想埜だ。常日頃から会う訳じゃないが、親族として稀にだが村で会っている。
「年々あの周辺だけ強くなっているんだ。あいつは他の妖同様“逃げ隠れていたつもり”なんだろうが見え透いた嘘じゃ誤魔化せん。万が一があれば捕獲対象になるだろう」
それを聞いて海祢は海萊を引き止めた。
「なんだ海祢」
「兄さん、あの……」
「従兄弟だから同情してるのか?」
図星だった。想埜は大切な従兄弟で、友達みたいな関係性だ。そんな人に“捕獲対象”だなんて言葉を使いたくは無い。だが兄の海萊は違う。妖そのものを消滅させようとしているこの人は相手が血族でも関係無い。そもそもの話、想埜を怪しむ要素が何処にあるというのだ。ご両親は至って普通の…、思えば親族なのに顔を見た事がなかった。
「何の為に妖葬班に入ったか思い出せ。…行くぞ」
海萊は手を振り払うと、苛立ちながら歩き始めた。それを見て二人は何とも言えない面持ちでついて行くのだった。
想埜は友達二人と妖葬班の三人を見送り一人になると、戸口を閉めその場に崩れ落ちた。汗を流しながら顔を手で覆う。動揺で目は泳ぎ、息も少しばかり上がっている。
「嘘だ…」
両親との約束を守っていたのに、どこでどう間違えたというのかわからなかった。妖葬班に居場所を掴まれるなんて。もう、此処には居られないのか。この先どうしたらいいのか、誰も教えてくれやしない。
ならばいっそ死んでしまおうかと立ち上がり包丁を手に持つが、それも震えから落としてしまった。自身の弱さに失望する。そうだ、明日また昂枝が来ると言っていた。宮守の人なら何でも願いを叶えてくれるのでは。そう思ったがどう考えても馬鹿で無駄な事だ。人に罪を着せることは出来ない。
そもそも自分は何故、人を避け暮らしているんだっけ。もう忘れてしまった。
あぁ、もういっその事妖葬班に全てを任せてしまえば良いのかもしれない。海萊さんこそ何でも引き受けてくれるはずだ。言えば良いんだ。
「早く殺して下さいって…」
落胆しながら想埜は涙を流した。