お茶と妖狐と憩いの場
「………ごめんね」
 俯き、涙を拭いながら言う。
 こんなに慌てて泣いてたんじゃ、あからさまだったかもしれないのに。
「…取り乱しちゃって、ごめん。…ごめんね」
「そんな、謝らないで…? 私もきっと、妖葬班が来たら怖くなってしまうから…」
 結望は小さな手で想埜の手を握り締めながら、優しく慰めてくれる。
 彼女のことは詳しく聞けなかったけれど、なんだか似た者同士だと感じた。だけど自分は、結望のように前向きになれるだろうか。ただひたすらに嫌な方へと考えてしまわないか、不安な気持ちに苛まれる。
 結望は偉いな。凄く、偉い。
 一方で昂枝は、元々沢山喋る性格ではないし、全ての情報を持っているはずだから迂闊には言葉にできないんだと思うけれど、表情から心配してくれているのは伝わった。
「昂枝もごめんね」
 想埜は昂枝に向かって謝った。
「いや、俺は別に…」
 そっぽを向くと、笏を手に取り口を隠した。
 なんだか昂枝までかっこよく見えた。依頼者以外のところで何食わぬ顔で過ごし続けるのはきっと大変だから。
(皆、偉いなぁ…)
 二人を見ながら羨望してしまう。
「…そうだ。想埜は、妖のこと…苦手?」
 結望は手を離さず、じっと見つめながら質問した。それは、自分にとって大切な問題だった。
「…そんなことない。妖は、…きっと皆被害者だから」
 他の妖自体と対話をしたことはない。妖葬班がすぐ処分だなんだの言っている為、こんな辺境地じゃ見たこともなかった。そもそも、妖葬班がこの辺りに来たのも海祢達が初めてのように思える。
(どうしたらいいんだろ…)
 だけどわかるのは、彼らは何も悪くないということ。結望と同じ気持ちだった。
「……よかった。実はね、会わせたい人がいて――」
 結望はそう言うと、外へ走った。
 そして中へ入ってきた独特の雰囲気がある人を見て、想埜は目を見張った。
 “仲間”だ…と。
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