お茶と妖狐と憩いの場
***

 昨日想埜の家から帰宅した後、ずっと考えていたことを相談しに昂枝の部屋の前まで来ていた。静かに襖を開けると、彼は文机に肘を着きながら仕事と向き合っているのが見えた。
「――ねぇ、昂枝…?」
 彼は私の声に振り向くと「なんだ」と、いつものように聞き返した。
「今…、大丈夫…?」
「……寒いから閉めろ」
 私はそれを了承と受け取り中へ入る。昂枝も作業を止めてこちらへと向き直った。少しだけ距離を開けて腰を下ろす。
「あの、ね…昂枝、もしかして、想埜は妖葬班苦手なのかしら…」
 私はそのまま突拍子もなく呟いてしまいはっとする。
 真っ白になった。
 頭の中ではもっと前置きを考えていたのに…。
 いざ声を出すと上手く言葉に表せなくて、目の前にいる昂枝をきっと困らせているという現実。後ろめたさを感じると涙が出そうになった。だけど昂枝は何も文句を言わず、遮らずに「…それは、どうして?」と聞き返してくれた。
 やっぱり昂枝は…宮守の人達は、私に親切に接してくれる。毎日それを感じては、嬉しくなった。
 昂枝は私を見ながら首を傾げる。
「えっと…私達、今までそんな話したことなかったけど…、想埜…妖葬班と喋ってた時…、動揺…というか、目が…泳いでたように見えて…」
 一生懸命話をしようとすればする程言葉が途切れ途切れになり、声も小さくなっていく。これも私の悪い癖だった。
 口元を袖で覆い隠し、また次の言葉を考える。
 毎日話す相手でも顔を合わせられなくて、今昂枝がどんな表情をしているのかさえわからない。ただ、静かに私の言葉に耳を傾けてくれていることだけはわかる。
 それに甘えながらゆっくりと、ひとつひとつ言葉を紡ぐ。
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