お茶と妖狐と憩いの場
「もし…、想埜が妖のこと嫌いじゃない…のなら、なるべく早く、深守に会わせたいと、思って…相談しに…」
「深守と…?」
 昂枝の低い声に、私はきっと拒否されるだろうと思い身構えた。
 しかし何も返事は返ってこない。
 逆に不安になり視線を畳から昂枝に少しだけ向けると、険しい顔をしながら考える素振りを見せていた。
「………ごめんなさい」
 私はなんとなく、そう呟いた。
 こんな事で悩んで相談なんて、申し訳なく感じたからだ。夜も遅いのに、仕事をしているのを止めてまで、こんな小心者に付き合う義理もない。それに、深守本人にはまだ何も言ってないのだ。いきなり他者に相談というのも、変な話だと今になって思う。
 昂枝はそれに気づくと「すまん…」と呟き、身をこちらへと近づけた。
「そんなつもりじゃなかった。俺は…考えてたんだ。どうするべきか」
 昂枝は微笑みながら私の頭をぽんぽんと撫でる。
「…相談してくれてありがとな。きっと、沢山考えてから言いに来てくれたんだろ? 俺は嬉しいよ」
「昂枝…」
「…で、お前はどうしたいんだ」
 私の目を見据えながら昂枝は言った。
「私自身、変なこと言ってるのはわかるの。でも…、もし協力し合えるなら…それがいいんじゃないかな…って思ってるわ。だけど上手く事が運ぶかなんて、わからないから…」
 そう、世の中上手くいかないことの方が多い。私だって知っている。
 だけど、伝えなくて後悔するよりは、早めに行動したい。
「ごめんなさい…。きっと二人が一番困惑すると思うし、…その、結果次第では……酷い事をするって、自覚はあるの。責任もしっかり取りたい…だけど、一人では上手くまとまらなくて」
「なるほどな。う~ん…そうだな…」
 昂枝は顎をさすりながら考える。これは昂枝の癖だ。
「深守と想埜次第ってところはあるが…。もし仮に、想埜が妖を受け入れたとしてもアイツの親族に妖葬班がいる。そこは実際見たんだしわかるよな…? しかも相手は海萊さんだ。目をつけられるのは時間の問題だと思う。実際、今日も謎の訪問があったわけだし…。あと…、深守を受け入れなかった場合、猶予は無いと思った方がいい」
 昂枝は、まず妖葬班を踏まえて意見を述べた。
 そこは勿論考えていたが、改めると深守が妖葬班に見つかる可能性が上がる点では、かなりの欠点だ。
「欠点述べたから、次は利点だな。深守と想埜が仲間内になれれば隠し事も無くなる。それこそ、協力できるってわけだけど…深守はどう言うかねぇ…? つい最近その場の勢いで此処に住むことになって、更には無関係な奴を仲間にしろって無茶苦茶すぎるよな」
 深守が宮守に匿われることになった数日前、あの時はそうするしか手立てがなかったのも事実。宮守の人達がああでなければ叶わなかっただろう。
 だけど、今回は勝手が違うのだ。
 深守にも相談しなくてはならないのは間違いないのだが、先程から姿が見えなかった。
「深守は今、どこにいるんだろう…」
「――呼んだかしら?」
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