お茶と妖狐と憩いの場
「~~~~!!!???」
 ひょこんと現れた狐に昂枝は声にならない声で驚いた。
 私も突然の事で言葉を失ってしまう。
「……あぁ、ごめんなさい。人間になるわね」
 そう言うと一度昂枝の部屋を出た。そしてすぐに襖を開き、人型の深守が現れる。
 どうやら変化…? を他人に見せるのが苦手らしく、毎回この方法を取っていた。
「いや、あのなぁ……」
「神出鬼没の深守様~ってネ。んっふふふふふ」
 深守はけたけたと昂枝を見ながら笑った。
「深守、いいところに…。来てくれて嬉しいです」
「ヤダ~結望の囁きでも心の声でもアタシは何処にでも駆けつけるわよ。それで何だっけ? ソノ…? とやらと仲間にならないかって話…かしら? その事なら、勿論イイわよ」
 深守はあっけらかんとした表情で言った。
「お前、絶対近くで聞いてただろ…」
「さぁ? アタシはね、結望が頑張ってるのを応援してたんだよ。かわいいなぁ、健気だなぁってね」
「………」
「これは絶対傍に居たな」
 昂枝は大きくため息を吐いた。
 深守は私が数刻悩み抜いた事を、こんなにも簡単に終わらせてしまった。こんな事になるのなら、最初から深守に聞いておけばよかった…かもしれない。
「……うぅっ」
 昂枝の時間を奪った事も、深守にも一度声かけるべきだった事も相まって、私は項垂れた。
「ごめんなさ…っ」
 顔を隠すように体を埋める。
 見られたくない。恥ずかしい。申し訳ない。逃げ出したい――。
 以前のような恐怖心はないけれど、私のような性格では頭がいっぱいいっぱいだ。結果、しどろもどろになってしまう。
「恥ずか、しい…」
「…結望」
 深守は勢いよく私を抱き締めた。
「……っ」
「ばっ…また…!!」
「色男はちょいと静かに」
 深守は昂枝を制すると、私の背中をあやすように優しくさする。
 何度、何度も…。
 ――実は、この前も感じたこの感覚。深守に抱き締められると、どこか懐かしい気持ちになったのだ。
 下心がある訳ではない。ただただ、あたたかくて、優しい背中に思いが募った。
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