お茶と妖狐と憩いの場
「……治癒の力…?」
「そう。アタシには怪我をした時、熱を出した時、それを即座に回復できる。普通に考えたら不思議な力よね」
「…でも、その力って凄く便利じゃないですか?」
「えぇ、便利。だけど…、アタシは“もう”結望達にしか使いたくないわね」
 私は首を傾げる。自分には使わないのだろうか。
 深守はそれに気づいたのかまあまあと手を揺らした。
「いつでも使える便利なものはね、本当に必要な時にしか使っちゃダメなのよ。普段から使ってたら、力の大切さが麻痺しちゃうでしょう? だから、アンタ達にしか使わないって決めたのよ」
 私の頭をぽんっと撫でると、そうだと懐から小さな棒を取り出した。
「……アタシ、常日頃から結望に護衛の術を付けれるほどの力は無いへっぽこ神様だけど、アンタに出来ることを考えた時にこれしかないって思ったの。……受け取ってくれるかしら」
「これは…笛…?」
 私は深守から小さくて可愛らしいそれを受け取ると、興味深く見つめる。
 あまりこういうのを触ったことがないので新鮮だった。
「………出来るなら本当、力で解決したかったのよ……? だってほら、その方がイカしてるし、それなんかよりも…ずっと早く駆けつけられると思うの。……ちなみに今のアタシ、ふざけてなんかなくて、これでも大真面目にそれを……今更なのもわかってるんだけど」
 深守は珍しく慌てふためきながら言った。なんだか面白くて、ふふっと声を漏らしてしまう。
「…ありがとうございます、深守。私のこと考えてくれてるのがわかって、とても嬉しい…。一人でいる時に万が一があったら、これで貴方を呼びますね。あ、そうだ…首にかけておこう、かしら? それだと紐で括らないと…」
「………結望、それアタシがやってもいいかい?」
 そう言うが否や深守は、結んでいた髪の紐を解いた。私から笛を拝借するとそのまま巻き付ける。
 私の首元へ腕を伸ばすと髪の毛を避けながら、うなじ辺りで結び始めた。

 ―――深守の顔が近くで煌めいた。
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