お茶と妖狐と憩いの場
「……あ、あなた……は………」
そう呟いたとき狐は私へと近づいて、そっと鼻緒擦れを起こした足に鼻を寄せた。
「だ、だめ…!」
すんでのところで避けると、首を振った。
美しい狐は表情は変えずとも、「どうして?」と言っているような雰囲気を感じて「仲間のところ、帰れなくなってしまうでしょう…?」
狐の頭くらいの高さ、視線に合わせて答える。
狐は何も言わずにじっと私を見つめ続けた。不思議な瞳だった。毛並みと同じ金色に、緑、桃が反射する。
しばらく静かに見つめ合うと、狐は踵を返し、走り去って行った。
(………綺麗な、瞳だった)
そう思いがらも、私も流石に帰らなくてはと立ち上がる。
見たいと思ったであろう狐には会えた。怪我をしてしまったけれど、このくらいならすぐに治るし気にすることもない。
私は森を抜け家に戻ると、すぐさま患部を水で洗い流した。
「何やってるんだ?」
そこへ仕事帰りの昂枝がやって来た。私より長く茶色い髪の毛を束ね、浅葱色の袴を身にまとった神職姿はきっと、村の女の子達から人気が高いだろう。境内は村人がいるのでなかなか行くことはないが、仕事をしている昂枝を見てみたいとも思う。
「ちょっと怪我をしてしまって…でもかすり傷だから」
「そうか…。早く治るといいな」
昂枝は心配そうに私を見つめると、「ん?」と疑問の声を上げる。
「どうしたの…?」
「いや、すまん……。どこも怪我してないように見えたから」
「……?」
私はぐっと足に近づけ凝視すると、目を疑った。
さっきまであった傷口が跡形もなく消えているではないか。
「え…何故…」私は親指と人差し指の間を触る。痛みも、ざらっとするはずの傷口の感触も、何も感じない。だけど、草履の鼻緒は見事に切れて修理が必要な状態であるのは間違いないし、足袋も赤く染っているままだ。
「話が見えないんだが……?」
「え…えっと、…足を引っ掛けてしまってね? その衝撃で鼻緒が切れてしまって、指の間にも力がかかってしまったから……それで…なんだけど……」
昂枝は目を細めながら「うーん」と考える。「まぁ…お前が嘘つく性格とは思えないしな。そもそもここは妖も存在する村だし、そのくらいちょっとやそっとあってもおかしくないんじゃないか?」
絶対にそうだ、と一人納得したように頷く。
「そんなもの…なのかしら…?」
「そんなもんだろ。ていうかよかったじゃねぇか。草履履く度痛がる必要が無くなったんだぞ」
そう言われてみて「………確かに、それは……一理あるかも」
綺麗になった足を拭き、草履を履き直す。
「………あっ、……どうしましょう。夕飯の支度まだなの」
「ははっ突然だな。じゃあ、たまにはみんなで作るか」
昂枝は笑いながら私の頭をぽんぽんと撫でる。
私達はまずご飯の準備だ、と不思議な出来事を考えるのは後回しにして、急いで炊事場へと向かった。
そう呟いたとき狐は私へと近づいて、そっと鼻緒擦れを起こした足に鼻を寄せた。
「だ、だめ…!」
すんでのところで避けると、首を振った。
美しい狐は表情は変えずとも、「どうして?」と言っているような雰囲気を感じて「仲間のところ、帰れなくなってしまうでしょう…?」
狐の頭くらいの高さ、視線に合わせて答える。
狐は何も言わずにじっと私を見つめ続けた。不思議な瞳だった。毛並みと同じ金色に、緑、桃が反射する。
しばらく静かに見つめ合うと、狐は踵を返し、走り去って行った。
(………綺麗な、瞳だった)
そう思いがらも、私も流石に帰らなくてはと立ち上がる。
見たいと思ったであろう狐には会えた。怪我をしてしまったけれど、このくらいならすぐに治るし気にすることもない。
私は森を抜け家に戻ると、すぐさま患部を水で洗い流した。
「何やってるんだ?」
そこへ仕事帰りの昂枝がやって来た。私より長く茶色い髪の毛を束ね、浅葱色の袴を身にまとった神職姿はきっと、村の女の子達から人気が高いだろう。境内は村人がいるのでなかなか行くことはないが、仕事をしている昂枝を見てみたいとも思う。
「ちょっと怪我をしてしまって…でもかすり傷だから」
「そうか…。早く治るといいな」
昂枝は心配そうに私を見つめると、「ん?」と疑問の声を上げる。
「どうしたの…?」
「いや、すまん……。どこも怪我してないように見えたから」
「……?」
私はぐっと足に近づけ凝視すると、目を疑った。
さっきまであった傷口が跡形もなく消えているではないか。
「え…何故…」私は親指と人差し指の間を触る。痛みも、ざらっとするはずの傷口の感触も、何も感じない。だけど、草履の鼻緒は見事に切れて修理が必要な状態であるのは間違いないし、足袋も赤く染っているままだ。
「話が見えないんだが……?」
「え…えっと、…足を引っ掛けてしまってね? その衝撃で鼻緒が切れてしまって、指の間にも力がかかってしまったから……それで…なんだけど……」
昂枝は目を細めながら「うーん」と考える。「まぁ…お前が嘘つく性格とは思えないしな。そもそもここは妖も存在する村だし、そのくらいちょっとやそっとあってもおかしくないんじゃないか?」
絶対にそうだ、と一人納得したように頷く。
「そんなもの…なのかしら…?」
「そんなもんだろ。ていうかよかったじゃねぇか。草履履く度痛がる必要が無くなったんだぞ」
そう言われてみて「………確かに、それは……一理あるかも」
綺麗になった足を拭き、草履を履き直す。
「………あっ、……どうしましょう。夕飯の支度まだなの」
「ははっ突然だな。じゃあ、たまにはみんなで作るか」
昂枝は笑いながら私の頭をぽんぽんと撫でる。
私達はまずご飯の準備だ、と不思議な出来事を考えるのは後回しにして、急いで炊事場へと向かった。