お茶と妖狐と憩いの場
「――よし、できた」
 深守は満足そうに呟く。
 結ぶだけならすぐ出来てしまいそうな工程なのに、かなり時間がかかったように思う。
 私は視線を下ろしながら言う。
「………なんだか、嬉しい」
 胸元にある小さな笛を優しく包み込む。深守が私の為にくれた、宝物。
「…深守がここにいるみたい」
「あら、目の前にいるのにねぇ…」
 私の手をそっと退けると、そのまま笛を手に取る。深守は顔を近づけると、廬舌を避け、唇を落とした。
「……!」
「これはアタシの結望に対する忠誠の気持ち…って、ヤダ。結望、さっきから顔が真っ赤よ」
「…し、深守…が悪いんです…!」
 私は羽織の裾を掴むと俯いた。
 しかしすぐに視界は変わる。顎に指を添えられると、くいっと持ち上げられたのだ。
 また目の前には深守の微笑む顔が、神様を名乗るだけある圧倒的存在感が、そこにはあった。
 どうして、私なんかに……。
 深守とずっと居たら心臓が持たない気がして。
「…………」
「……深守、……私、まだやる事が…」
 これ以上優しくされたら元に戻れなくなりそうで、途端に怖くなった。
 やっぱり早くここから去ろうと、深守の手を軽く払い退け立ち上がる。
 笛をそっと内側へしまうと、感触が肌へと伝わるのを感じた。深守が口付けをした小さな笛が着物の中で揺れ動く。
「結望――」
 深守は私に声をかけるが、私が彼を見られなかった。

 そんな時、おばさんが帰ってきたのかそそくさと私達の所へやって来た。
「結望ちゃん! 結望ちゃん! 良い知らせを伝えに来たわよ!」
 深守も立ち上がると、私の隣でおばさんの方を向いた。
「……? 何でしょうか」
「――結望ちゃん、貴女の嫁ぎ先が決まったの!」
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