お茶と妖狐と憩いの場
「――嫁ぎ…先…?」
 私は耳を疑った。
 私が結婚…? 誰と…?
 今まで、そんな話を聞いたことがなかった。
 だって私のことを必要としてくれる人なんて、誰一人としていなかったから。限られた人達の中でも、そういった話が出るとは思えない関係性をしている…そうなると結婚相手は赤の他人ということになるわけだが。
「………一体、どなた…と? そもそも私は、結婚する資格が…あるのでしょうか」
 私は震えながら言った。
 深守も隣で驚いた表情をしている。
「それがね、結婚するお相手の方はあまり外に出るのが得意ではないみたいで…。代わりにと別の男性…、その方の下についている方がいらっしゃってるの」
「………えっ」
「身支度整えて早くお座敷へいらしてちょうだいね。お呼び出しするから」
 おばさんはそう言うなり駆けて行った。
「………………」
「……結望」
「……あ、あ…えっと……。どうし、ましょう……?」
 私は突然のことで頭が破裂しそうになった。
 普通なら喜ばしいことなのに焦りと不安でいっぱいになる。本人は不在とはいえ、もう此処に来ているなんて。
 ――いえ、結婚して初めて婚約者とお会いすることも割と普通のことで…、そもそもこうして挨拶に来てくださることはとてもありがたい訳なんだけれど。
 どうしたものか…。
「結望…、アタシがついてるわ」
「で、でも…! 深守は離れているべき…でしょう?」
「………大丈夫よ。そばにいる」
 怖いなら羽織をもうひとつのお守りにしなさい、そう私に優しく伝えると背中を押した。


 私は座敷に向かい指定された場所へと腰を下ろした。隣には昂枝が真剣な面持ちで座っている。それだけで、少し安心だ。
「昂枝はこのこと、知ってたの…?」
「……いや、突然決まったんだ。だから俺も驚いてて」
 昂枝は頭を抱えると、溜息を吐いた。
 私はなら仕方ない…と、大きく深呼吸を二回。
 そして、障子が開き、目の前に現れた男性を見て息を飲んだ。

 ―――鬼族。
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