お茶と妖狐と憩いの場
 私は彼を見て即判断した。
 人間のようでそうでないただならぬ雰囲気。そして、大きく頭から生えた角。
 折成さんよりも恐ろしい空気感を纏っていた。
「こちらが、結望ちゃんの婚約者の代理で来てくださった空砂(からさ)さん」
 おばさんは人間じゃないその人を見ても驚くことはない。それもそうだ。深守を受け入れる程の寛大さ、鬼族を受け入れないわけがない。
「………」
 空砂、と呼ばれた男性は静かにお辞儀をした。小豆色のような、それでいて白髪にも見える長髪が揺れ動く。
 私達も彼のお辞儀に合わせて一礼をする。
「……儂は鬼族…と呼ばれる者である。…驚いたかもしれぬが、笹野結望様と我々一族の長は婚約を致した故、此度はそれの挨拶へと参ったのじゃ」
 空砂さんは、静かに語る。これが人間だったらきっと、ただの政略結婚だと思うだろう。しかし、相手は鬼族だ。
 鬼族は私達の中でもあまり知られていない存在で、尚且つ以前、折成さんから酷い目に遭っている。
(『迎えの時間』か…)
 今になって合点がいった。あれは、そういう事だったんだ。
 あの事件がなければ知る由もなかった鬼族。その彼らの長…と呼ばれる人と正式に婚約をしてしまった。
 深守は、どう思っているのだろう…。
 彼は毎日私を守ると言ってくれていたけれど、あまり詳しくは教えてくれなかった。

 貴方は何を知っているの――?
 

 ―――挨拶は何事もなく終わった。
 婚礼を挙げる日まで、向こうへ行く準備をしたり、想埜への挨拶をする時間もしっかりと与えられた。丁重に扱って貰えていることに安堵のため息さえ出てくる。
 婚礼の予定日は、私の誕生日。その前には、此処を出ていかなければならない。
 喜ばしいことが沢山あるはずなのに、募るのは焦りばかり。
 そういえば、深守はどこにいるのだろう。またどこかへ行ってしまったようで、私はつい、家中を探し歩いてしまった。
 まるで深守を求めているかのようで気恥ずかしくなる。
(もうすぐ結婚するというのに…。別の男の人を思っては…だめなんだから。んん? …男の人、なのかな……女の人………? ううん、どちらにしても、だめよ)
 こうなったらお茶でも飲んで落ち着こうと思ったけれど、何だかそんな気分でもないことに気づいて落胆する。
「はぁ…」とため息をつき、そのまま自室へと戻る。
「…………」
 何事も上手くいきますように…。
 布団へ潜り込むと、後は考えずに眠りについた。
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