お茶と妖狐と憩いの場
***

 深守は婚約の話を聞いた時、内心焦っていた。理由としては、鬼族がこんな堂々と現れるとは思っていなかったから。この前のように折成が、結望が一人の時を狙ってやって来ると信じていた。
 基本我々のような妖葬班に見つかってはならない存在は、こんな表立って来るような事はしない。
 しかし彼らは違う。宮守家の懐の深さを利用して行動に出たのだ。
 婚約の挨拶が終わり空砂が帰った後、同じく深守は狐の姿に戻り身を潜めながら鬼族の元へ向かっていた。
 空砂は鬼族の中でも上位の人物。そんな彼は折成を使わず、一体何故人里に下りてきたのか。
(……圧力でもかけているつもりかしら)
 きっとそうだ。深守は考える。
 その時、ピュンッと何かが通り抜けた。
(今度はこっち)
 もう一度、今度は二発。飛び跳ねながら避ける。そのまま人型に変化して「んもう、空砂ちゃんったらちゃんと目を見て話しましょうよ」
 扇子を取り出し、片方の手のひらに軽く叩きつけながらつまらなさそうに声をかける。
「………貴様と話すことはない」
 空砂は木の上から手にした矢を放つ。
「そうかしらねェ…? 今日のコトとか、あるんじゃないかい?」
 口元を隠しながら深守は真剣な表情を見せる。矢を扇子で華麗に弾くと低い声で言った。
「……ねぇ、まだ本気なの? いい加減にしたらどうなんだい」
「五月蝿い」
 至近距離から弓を放たれ、深守は扇子で受け止めきれず右手から鮮血が溢れ出した。
 空砂の胸ぐらを掴みにかかると「…っ! アンタは絶対に間違ってる! アンタだけじゃない、鬼族そのものが…っ狂ってるのよ…ッ!!」と叫んだ。
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