お茶と妖狐と憩いの場
 血で赤くなった手のひらをまじまじと見る。不甲斐なさを感じながら、回復を諦めてそのまま帰ることにした。
 足を引きずりながら木々の間をぬって歩く。
(やっぱり、話し合い…は、できないのかしら…)
 空砂だろうと、折成だろうと、相対すれば必ず武器を使い、邪魔者を始末しようとした。まるで妖葬班のそれと同じように。
 何も鬼族達と殺り合いたいわけじゃない。自分が扇子だけを持って戦うのは、殺すつもりはないという現れだから。万が一の為に仕込み刀に改造をしてみたものの、致命傷になる程の傷は付けられない事もわかりきっていた。
 はぁ、とため息をつきながら、ようやく見えてきた神社に安堵する。
 ここまで来れば、後は部屋に戻るだけ。裏口からそっと戻れば誰も起こさずに済むだろう。

 そう、思っていた。

「し、…深守」
「……結望…?」
 裏口には結望が立っていた。貸したままだった羽織を肩にかけ、寝巻の状態でこちらを目視した。深守を見るなり涙を流した彼女は「っ…よかった」と頬に伝う水を拭い、駆け足で近づいた。
 また、深守も早く彼女の元へ向かおうと、一直線に歩みを進める。
 どうして起きていたのかわからない。だけど、お互い求めているものが同じだと感じると嬉しくなった。
 結望は深守に優しく抱きつくと、
「深守がいなくなる夢を見たの…」
 と震えた声で言う。体の力が抜け、その場にへたり込む結望を抱きかかえた。深守は困ったように「……寂しくなったのかい?」と呟いた。
「………怖く、なったの……。会えなくなるだけなら……でも、でも……ぅ、っしん、じゅ……っ」
 俯いて両手で顔を覆いながら嗚咽する結望を見て、深守は頬に手を添た。
「えぇ…」と相槌を打つと、結望は手を重ねて縋るように言った。
「もう何処にも行かないで…。私だけの神様……」
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