お茶と妖狐と憩いの場
 私はボロボロの深守を見ながら、夢のことを考えて添えられた手に縋る。触れることが出来て嬉しくなった。
 この人は本当に自分相手に力を使わない気だ。どうして自分を大切にしてくれないの? そう問い質したかった。だけど使わないと昼間宣言されたばかり。ならば早く手当をしなくてはとへたり込んでしまった体を上げる。
「……ごめん、なさい…。早く中へ入りましょう。…手当、しますね」
 深守の腕を肩に回し、支えながら一歩を踏み出す。血はぽたぽたと垂れ、私が勝手に羽織っていた羽織も赤く染めた。痛々しい無数の傷に、私は胸がぎゅっと締め付けられる。いくら本人がよくても大怪我過ぎる。
 これも鬼族が関わっているというの?
 どうして無茶をするの?
 私のせいで深守の命が脅かされているのなら、尚のこと申し訳なくなってしまう。

「――腕とかは言うまでもないけれど…背中とかも凄い傷……」
 手当し包帯を巻くために着物を脱いだ深守の背中をまじまじと見る。なるべく染みないようゆっくり丁寧に血を拭いながら、私は聞いた。
「……空砂さんと、喧嘩でもしたの…?」
 突然決まった婚約、代表して挨拶に来た空砂さん、鬼族から守りたいと言ってくれる深守が行動に出そうな条件が揃っていた。
「……彼らとゆっくり話し合うってのは、難しいコトなのよ。アタシがそうでも、向こうは違う。アタシは邪魔者だから………」
 背中越しでも伝わる歯がゆさを私は受け止めることしかできなかった。
「……ずっと理由を聞きたかったの。どうして私の為にあなたが頑張るのかなって……私なんかの為に頑張らないでって、今日心の底から思った」
「結望……」
「だって、私あなたを失いたくないんですもの。例え離れ離れになっても、あなたが生きてるなら…それでいい」
「………結望、それは告白ってやつかい?」
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