お茶と妖狐と憩いの場
 後ろを振り返りながらふっと笑った。
「ゎ、わっわた……ぅぅ、もう……私は真剣なのに…」
 私は顔を真っ赤にさせると頬を膨らませる。ここまで気を許せるようになったのも、深守の性格のおかげかもしれない。
 ちょうど上半身の包帯が巻き終わり、右手と右腕の酷い部分に触れる。少しだけ痛そうな声が聞こえてきて、「ごめんなさい」と呟く。
「アンタ……ここ一ヶ月の記憶しかないのに気持ちはいっちょ前なんだから、もう……」
 頭を抱えると溜息が零れる。
 深守は私が短期間でこうなってしまったのを憂いているように見えた。
「…結望、こっちおいで」
 深守は私に正面に来るよう促し静かに笑う。包帯をきゅっと巻き、そのまま大人しく移動をする。深守の目の前に正座をすると、深守は私の手をそっと握り締めた。
「……今の時点で言えることと、言えないことがある。それでもいいかい?」
 私は頷いて言葉を待った。
「…アタシはね、ある人から結望を守るようにお願いされたんだよ。……ほら、アタシって神様だから、いろんなことお願いされちゃうってワケ。あ、因みに勘違いしないでほしいんだけど…アタシはいやいや結望の傍にいる訳じゃないのよ? 心の底から大好きな気持ち、ちゃんとあるの。だって結望ったら食べちゃいたいくらいイイ子なんですもの」
 おちゃらけながらも、その時のことを思い出しているのか懐かしそうに語る。そっと私の手をさすりながら「出来ることならもっと前から一緒に過ごしたかったわ……」と嘆いた。
「……つまりは約束を果たしに来たのさ。神様として叶えない訳にはいかない。そもそも、結望にも必ず幸せになる権利はあるんだから」
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