お茶と妖狐と憩いの場
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 狐を見てから一週間が経った。
 あの日からも度々森を覗いているが、狐どころか動物そのものが現れることはなかった。ただ、この数日幾度と視線を感じることが増えた様な気がする。
 用事がある時以外、外に出ようとは思わない為摩訶不思議だ。

 昂枝のご両親は日々のお勤めがあり、家よりも神社の方に長くいる。勿論、昂枝もそちらの方が多い。私はというと、お手伝いだけ。おばさんと一緒にご飯を作ったり、代わりに家事をこなすのが日常。家に置いてもらっている身、出来ることなら基本は何でもこなしたい。“宮守”家の人達の為に支えたいと感じている。
 最も、その位しか独り身に仕事は無い。私みたいに力の無い女性は、畑仕事等にも向かないらしく追い返されてしまったし。
 歳の近い女の子達はもう、結婚をし子供を産んでいるのに私にはお相手さえいない。周りからお荷物だと思われている事も重々承知している。女で血縁者がいないと、こうも惨めになるんだと周りの目で痛感させられているから。此処に住まわせてもらって、表面だけでも優しくしてもらえている事が、どれだけ有難いことなのか。
(表面だけ……だなんて言っては駄目ね。感謝しかないんだもの)
 もっともっと貧しい人達がいる事も忘れてはいけないし、何より今の私は幸せだ。
 正直、許されるのなら――このままでいたいという気持ちさえある。
 考えながらも、いつものように家事を一段落させた。
 私は何となく、「…狐さん、よければ一緒にお茶でもいかがですか?」と言ってみる。
 狐なんかがお茶なんて飲めっこないのに。そもそも此処にあの狐はいない。私は途端に恥ずかしくなり、首をぶんぶんと横に振ると口に出した事を後悔した。
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