お茶と妖狐と憩いの場
 どう説明するのが最善だというのか。
 “生贄”がこの世に存在することは知っていた。だけどまさか、彼女が捧げられる側だとは思ってもみなかった訳で…。
 気づいてからじゃ、遅い。
 何もかも遅すぎた。彼女も一人で抱え込む性格なのは知っていたけれど、言われなきゃ気づけない大切なことを訴えてくれなかった。
 鬼族のために身を捧げた紀江は常日頃から『結望を守って』と呟いていたけれど、それがこんな結果を招くとは思わず恐ろしくなった。あれから人間と鬼族の間に何が起きたのか出来る範囲で調べ尽くして、腕を磨いて、今ようやく此処にいるけれど。
 そこまでしてやっと理由を知って、どうして言い出せなかったのかを理解した。
 彼女は我が子だからという理由だけではなく、本能のままに絶対に結望のことだけは助けてと、ずっと救いを求め続けていたのだ。
 結望を一人置いていってしまった彼女のことを思うとやるせなかった。
 あの瞬間、結望を連れて遠くへ逃げ出そうとも思った。
 思ったけれど―――。
 すやすやと眠る結望を見ながら言った。
「ごめんなさい、結望……。アンタは十分に強い……弱いのはアタシなの………」
 こんな直前になってしまってごめんなさい。怖気付いてごめんなさい。有耶無耶な状態でいることもごめんなさい。
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