お茶と妖狐と憩いの場
 あれから結望を危険な目に合わせない為に力を付けたはずなのに、折成にやられて助けに行くのが遅れてしまったこと。勝手に出歩いて空砂と一悶着してしまったこと。怒られて当然のことを今でも沢山し続けている自覚はあるのに。
 それなのに結望は怒ったりしない。本当にいい子で、守るべき彼女に甘えてしまう自分が存在する事が情けなかった。
(結望が苦しんできた分、これから苦しめるかもしれない分、全部アタシにぶつけておくれよ。でないと罪悪感に飲まれて死んじまうから…)
 もう一人にさせないから、どうか我慢しないで身を委ねて欲しい。
 怒り、悲しみ、全てをこの身で受け止める。命をかけてでも守り抜くからそれで許して欲しい。
 いずれ全部、ちゃんと伝えるから。
 深守は頭を垂れ、静かに謝罪した。
「………あ」その先で、目を覚ましたらしい結望が瞬きを数回繰り返す。
「……ん…あれ…………?」
 不思議そうに、彼女は目を擦りながら深守を見つめた。
「…………おはよう、結望。よく眠れたかい?」
「……! 私、もしかして深守のお布団で、怪我人を差し置いて……っ」
 眠る前のことを思い出したのか、ばっと身体を起こすと結望はあたふたしながらぺこぺこと謝った。
 その姿が可愛らしくて、愛おしくて、やっぱりこの子を守ってやらなきゃと何度目かの誓いを立てる。
「…いいのよ。目覚めちゃったの。身体も大丈夫だから、心配しないでね」
「……それなら、よかった…。でも…包帯はそろそろ変えましょう。…血が滲んでるから」
 結望は深守の右手に手を添える。
 結局、また甘えてしまう。優しさに抗えなかった。

 ―――結望と深守のやり取りに聞き耳を立てる者が一人。
「…………」
 昂枝は壁を背もたれにして両膝を抱えて座りながら、静かに溜息を吐いた。
「……俺は、どうしたらいいんだ」
 頭を埋めると、そのまま叫びたい感情を押えてじっと時が過ぎるのを待ち続けた。
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