お茶と妖狐と憩いの場
 もう一発と深守に思い切りデコピンを食らわした。深守はじんじんと痛む右手とおでこを庇うと、本格的に昂枝を恐れるような眼差しになる。昂枝は「はぁ…」とため息をついて、その場から逃げるように立ち上がった。
「…そろそろ着替えて支度しろ。やる事終わったら出かけるぞ」
 私に言い残すとそそくさと自分の部屋へ戻ってしまう。
 私は恐る恐る深守の方を向き直した。
「深守、ごめんなさい…」
 昂枝の代わりに謝罪をする。とても痛がっている深守を見るのは苦しい。わざわざ叩かなくてもよかったのに…と思いながらも、彼なりの気遣いなのは伝わってとても複雑だ。
 深守は右手を擦りながら溜息を吐いた。
「はぁ…いい子なんだか悪い子なんだかわからないわねあの子…」
「…素直ではない、かもですね」と苦笑する。
「……ふぅ…確かにそろそろ動かないとな時間かも。深守、本当の本当に今日はお休みして下さいね。ご飯も必要あれば持って来ます」
 私は改めて深守に安静を促す。つまらなさそうに「…仕方ないわね」と呟き渋々布団を膝にかけた。私は座る位置を変えると、そのままゆっくりと深守を横たわらせる。
「………本当に力は使わないの?」
「大丈夫よ。大丈夫。ご飯もりもり食べて寝たらすぐだから」
「そう…。じゃあ…、出来るまで待ってて下さいね」
「は~い」
 深守はゆらゆらと手を振りながら返事をした。いつか、取り返しのつかないことにならないといいけれど。私は心配になりながらもその場を後にしたのだった。
< 56 / 149 >

この作品をシェア

pagetop