お茶と妖狐と憩いの場
「……まぁ、確かに出来ることはやってるが…。ほとんど俺は何もやってないというか、出来る奴ですよあいつは」
 日々の想埜を思い浮かべながら昂枝は笑う。
「そうか…。なら良いのだが」
 と、言葉とは裏腹に何故かつまらないと言った口調で海萊さんは答えた。そして、不意に私の方に目を向ける。鋭い目つきに一瞬にして肌が粟立った。以前もそうだったが、彼は誰が見ても惹かれるような凛々しい顔立ちと共に、内に秘めたものが見えない恐ろしさを感じた。
 私は少し身を強ばらせ、海萊さんを見つめ返す。
「………笹野結望、だったか。お前、想埜と仲良くしてくれているらしいな」
「え、…えっと、はい…」
 直接話すのは初めてで、ただでさえ緊張している私は声を震わせてしまう。
「あいつ、元々友達が少ないから助かるよ。まぁ、ただ…気をつけた方が良いぞ」
 と忠告をするように言った。何故か今度は楽しそうな口調だ。
「…? 気を、つけるですか…?」
 私はなんのことだろう? と首を傾げる。想埜の何に気をつけろというのか。
 海萊さんはにまっと笑うと、私の耳元まで顔を近づけた。
「あぁ、そうだ。気をつけた方が良い。………想埜もだが、お前からも妖の匂いを感じる、からな」
「………!」
「あっはは、そう怖がらなくてもいいことを…。何、相当悪い妖が近くにでもいるのかね? なんなら俺が懲らしめてもいいぞ」
「――すみません、こいつは人馴れしてないんです。その辺にしていただけませんか」
 私が言葉を失っていると、昂枝は楽しそうな海萊さんから私を遠ざけるように肩を抱いた。
「………おっと、そうか。悪かったな、“花嫁さん”」
「────いえ…」
「まぁ、何かあったら我々にすぐ伝えるといい。…行くぞ海祢」
「…はい。ではまた」
 海萊さんはそう言うなり海祢さんを呼ぶと、海祢さんは丁寧にこちらへと会釈した。
 羽織をひらひらと揺らしながら視界から遠ざかる二人に私達も一礼をする。
「……ありがとう、昂枝」
「あぁ」
 昂枝にも軽く頭を下げると、私の肩から手を退かしながら昂枝は頷いた。
(妖の…匂い………か。自分では全然わからないけれど……)
 妖葬班の二人が向かう先は村。深守は今、一人布団の中で眠っている――はずだ。おじさんおばさんも神社の方へ出払っている時間帯で、家には彼だけということになる。
「……昂枝、気になること…沢山あるけど……。それよりも、二人が危ない気が…するの」
「二人が危ない…?」
「想埜もだけど…、今、深守はあのままなら…体を休めているはずだわ。…だけど、家に一人なの。いくら強くても怪我してるし、もし……万が一、海萊さん達が深守の存在に気づいたとしたら…」
「………確かにまずいというか、心配だな」
 なんで最初から考えつかなかったんだろう。
 今すぐにでも深守の元へ駆けつけなければ――と思う反面、どう選択するべきかわからなくなる。
 そんな時、ふと、思い出した。
 懐からその品を出すと、握り締める。
「……それは?」
「―――深守、から貰った笛……何かあったら呼べって…言われて」
 昂枝に、昨日貰ったばかりの笛を見せた。
 昂枝はなるほど、と呟く。
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