お茶と妖狐と憩いの場
 一人居間に座りながらお茶を飲むこの時間も嫌いではない。家事を済ませた後に飲む温かいお茶はとても美味しいし、ほっと一息とはこの事だと実感するから。宮守家は村から少し奥まった場所にある為、苦手な妖葬班の声もあまり聞かずに済むのもありがたい。
「…落ち着く」
 私はまた一口お茶を啜った。
(………)
 ──炊事までまだ時間がある。
 お茶を飲み干し片付けると、外に出る支度をした。大丈夫、そもそもが森に包まれた境内だ。奥の奥に行くわけではないし、ただ散歩をするだけ。行動が変だと村人に見られる事も…ないはずだ。
 あの狐がまだいるのなら、もう一度、会いたい。理由はこの一週間でもわからなかったけれど、何だか、そのまま放っておくのは駄目だと思うから。
 そう言い聞かせながら玄関を開きかけた。その時、
「お前今一人か。無防備なこった」
 と、昂枝よりも身長が高く、それでいて見たことのない男の人が目の前に立ちはだかった。赤色の袴を身にまとい、何だか厳つそうな顔をしている。それによく見ると頭には何かが生えているし、大きな槍を持っていた。
「ど、どちら様…ですか」
 私は一歩後ずさる。男の人は、そのままズカズカと許可なく玄関の中へ入って来てこう言った。

「笹野結望、迎えの時間だ」
< 6 / 149 >

この作品をシェア

pagetop