お茶と妖狐と憩いの場
「………大丈夫よ、大丈夫。アンタは、生きるべき人なんだから」
 深守は想埜に優しく声をかけながら傷口に手を添える。彼は集中し、力を込めた。
 手の内側、幹部の周りが小さく金色に輝く。深守は想埜に治癒の能力を使った。当の本人が使わなかった為、見るのは二度目だ。一度目は、私が鼻緒擦れを起こした時。
「っ…」
 想埜は一瞬、苦しそうな顔をしたが、徐々に和らいだのかゆっくりと大きく深呼吸をした。
 治癒の能力は心も落ち着かせるのか、想埜は冷静さを取り戻しこちらに視線を向ける。
「……ぁ、ありが…とう、ございます…」
「いいのよ。アタシには、これくらいしかやってやれないもの」
 深守は普段と同じように想埜の頭をそっと撫でる。くすぐったいのか、少しばかり困惑している姿はいつもの想埜のようだった。
「…それで、原因は波柴か…?」
 昂枝は単刀直入に聞いた。
「…………」
 想埜は静かに頷く。
「……信じたくはない、けど」
「――――くそっ」
「だ、だけど…っ! 海萊さんも、海祢も、別に悪くないんだよ!」
 二人を庇うように想埜は大きく否定した。
 幾ら従兄弟とはいえ、やっていい事と悪い事がある。そもそも、想埜を痛めつける理由が私にはわからなかった。
「なんで庇うんだよ! 何されたのか自分が一番わかってるだろ…っ!」
 昂枝は想埜の両肩を掴むと叫んだ。視線を合わせるが、想埜は昂枝から目を背ける。
「ち…違う…! それは、そうなんだけどあの人達はそれが仕事だから…」
「だからって…!」
「ちょいと落ち着きなさいよアンタ達」
 スパンッ、と深守は扇子を左手のひらに落とす。このままじゃ埒が明かないと深守は溜息を吐いた。
「―――全く。まず、妖葬班の彼らがどうしてアンタを襲ったかからだよ。…確か結望は、まだ知らないんじゃないかい」
 深守は扇子を少しだけぱらり、と開き口許を隠す。
 私は頷きつつも、思っていたことを話す。
「……確かに、知らないけれど…。でも―――」
 以前妖葬班である彼らに出会って、想埜は怯えていた。深守と関わりを持ち、自分の知らないところでも沢山会話を重ねていることも…なんとなく察してもいる。
 そして先程の海萊さんの発言、想埜の拘束。一人暮らしの理由―――。
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