お茶と妖狐と憩いの場
 もしそれが本当のことならば。私は今まで知らされなかったけれど、多分、それは彼も知られたくなかったからで。
 今更、だと思う。私は鈍すぎたと反省した。もっと早く気づいてあげられたらどれ程よかったか。
 ―――だけど、
「私は…、例えどんな想埜でもずっと友達だから」
 これだけははっきりと言えた。
「……っ」
 想埜はもう一度涙を流す。頬を伝った水滴が床へぽろっと落ちる。
「ぁ、あぁ…っ」
 両手で顔を覆い泣く姿を見て、なんだか自分を見ている気持ちになった。そう思ったら、私は無我夢中で想埜を抱き締めていた。
 抱え込まなくていい。別に泣いたっていい、男だから――とかそんなの関係ない。傍に甘えられる人がいることの安心感を教えてくれたのは深守で、その深守が私にしてくれたことを想埜にする。
 ずっと、一人で頑張ってきたんだ。想埜と私はやっぱり、どこか通ずるものがあると勝手に重ねて見てしまった。特に想埜は私以上に大変で、相談出来る相手はきっと、深守と出会うまで昂枝だけだったはずだ。
「ぅっ…ごめん、ね…ゆの……。皆も、ごめっ……」
「想埜は…何も悪くないよ。死にたいなんて、言わないで。私達と、一緒に生きましょう…?」
 想埜は私の背中へと腕を回す。縋るように、強く。
「……“普通の”人間に、生まれたかった」
 神様の意地悪だ。
 昂枝は仕事として、深守は同族として、彼を見守っていただろう。だけど、普通の人間が彼を仲間として見てくれる人など、何処にもいなかった。実際、血の繋がりがある従兄弟の二人でさえこうなのだ。いくら妖葬班と言えど、親族にすることではないことをしている。
 私はそうなりたくはない。
 そもそも妖がなんだというのか。妖は害ではなく、人間から故郷を奪われた被害者だ。今こうして必死に生きる想埜や深守、彼らが何をした?
 答えはひとつしかない。何もしていないのだから。
 昂枝は頭を抱えて呟いた。
「全部、終わってくれよ…」
 ―――と。
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